その愛を喩える言葉を知らない

　そしてまた、いつもと同じ駅長さんの笑顔に、内心癒やされながら、
「駅長さんも、お疲れ様でした」
　それだけの会話を交わし、最寄り駅から徒歩２分の距離もない自宅へと帰る。
　簡単に夕飯を済ませ、ゆっくりとお風呂に入り、ベッドへ直行。
　あたたかいベッドの中で、ラジオのニュースを聞きながら、いつの間にか眠ってしまう⋯⋯これが私の一日。
　そんな日々を一年近く繰り返してきた。これから先もそうだろう。
　一抹の寂しさもないといえば嘘になるとしても、誰かに心を酷く乱されるような日々に比べたらずっとマシだ。
　——あんなことは、普通の人にとって、大した出来事ではないのかもしれない。
　しかし、三十路近くまで挫折を知らずに生きてきた私は、それをどうやって乗り越えていいのかわからず、全ての人間関係も、安定した仕事も捨てて、ただ逃げ出すことしか出来なかった。