青い月は、春を待つ。
「あのぉ、すいません、春瀬課長。」
そう話し掛けてきたのは、新入社員の青倉葵月くん。
青倉くんの教育担当は主任の見浦さんにお願いしているのだが、見浦さんは早口で次々と話を進めてしまうらしく、メモが追いつかず全然何を言ってるか分からないからと、青倉くんは分からないことがあると、結局わたしに聞きに来るのだ。
「どうしたの?」
「お忙しいところすみません。この商品の在庫は、どうやって調べればいいんですか?」
「あぁ、これはね、この"在庫システム"をクリックして、下の方にある"在庫確認"から商品の型番を打ち込めば出て来るよ。」
わたしがパソコンを操作しながら説明すると、横で青倉くんがメモを取る。
「実際に打ち込んでみよっか。型番打ち込んでみて。」
「えっと、型番ってこれですか?」
「そうそう。」
慎重に型番を打ち込む青倉くん。
そんなわたしたちの姿を見て、深田さんが「課長って若い男の子には優しいのね〜。」と言っているのが聞こえてきた。
そして、その横では「イケメンだからじゃないですか?」と言っている村田さん。
わたしはそんなくだらない会話をいちいち気にしてはいられず、聞こえないフリをしていた。
「打ち込んだら、検索を押してみて。」
「はい。」
「ほら、在庫が出てきたでしょ?こっちが今ある在庫、こっちがもう他の支店でおさえられている在庫だから、気をつけてね?」
「なるほど、分かりました。ありがとうございます。」
青倉くんは理解してくれたらしく、パッと表情が明るくなると、一礼をして自分のデスクに戻って行った。