青い月は、春を待つ。
休憩が終わり午後になると、相変わらずお喋りを続けている深田さんが「あっ、やばーい!」と言いながら、1枚の紙を持って杉井課長のところへ行くのが見えた。
「杉井課長、すいませんけど、印鑑もらえますぅ?」
50も過ぎたおばさんの痛い猫なで声。
どうやら、納品書を間違えて打ち込んだらしい。
ミスをした書類はそのまま捨てず、課長の印鑑を押してから指定の場所に保管しておくのが決まりになっているのだ。
杉井課長は、「そっちの課長がいるでしょ?何でわざわざこっち来るの。」と言いながら、印鑑を押してあげていた。
「だって〜、うちの課長怖いんだもん。」
「深田さんが喋ってばかりだからじゃないの?喋りながら打ち込みしてるから、こうやってミスしたんじゃない?」
「だってぇ〜、仕事量が多すぎてぇ。」
「はいはい、分かったから。次からは気を付けてね。」
「はーい。」
深田さんはそう返事をすると、印鑑を押してもらった書類を指定のカゴに入れ、自分のデスクに戻って行った。
「ありがとね。」
わたしが杉井課長に向けて小声で言うと、杉井課長は「いいよ。」と苦笑いを浮かべていた。
そして、定時の18時になると、いつもの如く田んぼ三姉妹が今日中に終わらなかった打ち込みの書類をドッサリ持ってやって来る。
「春瀬課長〜、今日中に終わりませんでしたぁ。」
「はい、じゃあ、そこ置いといてください。」
わたしがそう言うと、田んぼ三姉妹は次々とわたしのデスクにどんどん書類を積み重ねていく。
お喋りばかりしているんだから、定時までに終わるはずもないのは当たり前だ。