ドアマットヒロインは、 速攻終了いたします!~堅物のはずがワンコの公爵様に溺愛されてます~
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 ガラス工房に到着した私たちは、トーオク様の挨拶を終えた早々、フロア奥のレストランに通された。

「今、シェフが試食品を持って来るから待っていてくれ。その間にこれ」

 トーオク様は満面の笑みで、分厚い書類を渡す。
 受け取ったギース様が驚いた顔をしているから覗き込むと、それは履歴書のようなものだった。

 ……この世界にも、履歴書ってあるのよね。

「これ、もしかして」
「ああそうだよ、ギース。採用した職人の履歴書だ」

 なんと、もともとここにいた職人さんだけでなく、他の領地の職人さんも、情報を聞いて転籍したがっているそう。

「レダ夫人の話してくれた、福利厚生とかいうのが、ここまで効果を出すとは思わなかった」

 住み込み、食事付き、週休ありの労働時間は八時間。
 これは正直、この世界では破格の条件だ。
 給与が多少下がっても、生活費がほぼかからないような状況ならば、ペイできるうえに、給与水準もほぼ同じ。

「人を大切にしてこそ、事業は成り立つと、私は思うのです」

 経営者と株主だけが得をするような会社経営では、人の成長を謳っていても人は居着かない。
 仕事を通じて成長したいと思う人は、若いうちならば多いだろうけれど、年を経る毎に減っていく。

 それよりも、自己実現を仕事以外に求める事も多くなるので、生活を脅かさない労働環境こそが、労働者が求めるものに変わっていくのだ。

 だから、福利厚生。
 それこそが、人を大切にすることに結びつく。

 私が前世の氷河期苦境を通じて学んだことは、この世界でもやっぱり通用する。
 それを強く感じた。
 ブラック、ダメ、絶対。
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