ドアマットヒロインは、 速攻終了いたします!~堅物のはずがワンコの公爵様に溺愛されてます~
 彼の腕にそっと手を添える。正直これで合っているのかはわからないけれど、特に何も言わずに、私を見てにこりと微笑んでくれたので、問題ないのだろう。

 ……と、言うよりも、キャラが違いすぎない? これのどこが堅物公爵だというのだろうか。
 さっきからクールなお顔は、にこにこと笑いっぱなしだし、行動は初対面の私に求婚したかと思えば、抱きしめてきたり──だめだ、思い出したら顔が赤くなってしまう。

「レダ嬢。妙に顔が赤いが、大丈夫か?」
「……そのニヤニヤ顔。わかってておっしゃってますね?」
「うん、良い。その返しが実に良い」

 なんだろう。ギース様はちょっとMっ気でもあるのか?

「あなたの家の馬車はどちらに?」
「馬車? そんなものはありませんわ。歩いてきました」
「歩いて?! いや、しかしルイジアーナ伯爵家のタウンハウスからここは、歩いて20分ほどはあるのでは」
「男性の足でそのくらいですね。私の足ではだいたい30分から40分くらいです」

 でも仕方がない。
 我が家は、使用人が買い出しに行くのには、下級馬車を使わせるというのに、私が出かけるときにはそれすらも使わせてくれないのだ。
 元婚約者に呼び出されたり、全貴族の子女が義務教育となっている貴族学校に通うには、歩いて行くしかない。まあ、おかげで足腰は強くなったけれどね。

「では、ルイジアーナ伯爵家まで、我が家の馬車で送らせて欲しい」
「それは是非お願いしたいです。そして、馬車の中でいろいろと確認をさせてくださいませ」

 私の言葉の意味をきちんと理解してくれたギース様は、一つ頷くと、そのまま私を公爵家の紋章のついた馬車まで連れて行ってくれたのだった。
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