ドアマットヒロインは、 速攻終了いたします!~堅物のはずがワンコの公爵様に溺愛されてます~
「そうそうできることではございません。前奥様もとても良い方ではございましたが、さすがに下働きの洗い場(スカラリー)メイドやガードナー見習いまでに声はかけませんでした」

 正直、元実家の伯爵家にはいないほど細分化された使用人がいることに、興味津々だったのだ。
 それに、自分が似たような仕事をさせられていたので、彼ら彼女らの仕事の大変さは多少はわかるつもりでもある。

 どうせ働くのであれば、気持ち良く働いてもらう環境を整えるのは、雇用主の最低限の義務だ。
 ……これは前世で私が、呪詛のように呟いていたことでもあるけれど。

 それにしても、貧乏公爵家というから使用人も少ないと思っていたが、そこそこの人数がいてびっくりした。
 さすがに雇用を簡単に切ることは躊躇したのか、使用人の中でも経験が浅く転職が難しい者や、逆に年齢が上の者を残していたそうだ。

 この辺の倫理観が、やはり公爵家はきちんとしているのだなと思う。
 そうした考え方をしている家に嫁げたのは、本当にラッキーだ。
 しかも実家とは無関係で、というところも!

「皆に気持ち良く働いてもらいたいからね」
「奥様……!」

 おっと。最近打ち解けたけれど、逆に妙に信者っぽくなってきたのよねマティ。
 でも、侍女頭というものは、味方に付けておいた方が絶対良いので、これはこれで良しとしよう。

「さ、お茶もいただいたし、公爵領の勉強を始めましょうか」
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