ドアマットヒロインは、 速攻終了いたします!~堅物のはずがワンコの公爵様に溺愛されてます~
「ちょっ、ギース様!」
「あなたがあまりにも可愛いことをするから」

「何がギース様の琴線に触れたのかわからないです」
「わからなくて良いよ。無意識にまたやって欲しいから」
「それもどうかと思いますが!」

 くすくすと笑いながら、彼女が俺の腕の中に収まる。
 こうして彼女を抱きしめていると、心の底から穏やかな気持ちになれるのだから、不思議だ。

「それで、どうしたの?」

 彼女が俺に話そうとしていたことがあったと、思い出す。
 言いたいことを中断させてしまったのは、反省すべき所だ。
 以後気を付けたい。気を付けたいが……できるだろうか。可愛すぎて。

「昨夜のこと……ごめんなさい。マティに、公爵夫婦に子どもができることも、領民の希望だって言われて……」
「そうか……。でも、レダも同じように領民のことを考えてくれたんだろう?」

「はい」
「だったら、できるだけ早く一区切り付けよう。そうしたら、子どもも」
「……はい」

 ふと腕の中の彼女を見ると、耳が真っ赤になっている。
 確かに、この会話は男女の関係になることを話しているのだからな。
 あからさまな言葉はなくとも、赤くなってしまうのは当然だろう。

 ……可愛い。

 本音を言えば、今すぐにでも食べてしまいたい。
 領主としての矜持が、それを耐えさせているだけだ。

──ちょっとつまみ食いくらいなら許されるよな。

「レダ」

 名前を呼べば、彼女はこちらを見上げる。
 唇を攫うと、少しだけ潤んだ瞳を見せた。
 そのあまりの色気に、意識が酩酊しそうになる。

 ……つまみ食いは、自分の身を追い詰めるだけだったと、その瞬間気付いたのだった。
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