本当の愛を知った御曹司ギタリストは歌姫を溺愛する
目が覚めて後ろから腕枕をして私を抱きしめて眠る獅音の温もりに頬が緩む。

クルッと向きを変えて獅音の方に寝返りを打って前から抱きつくと、眠っている獅音がまた抱きしめてくれて、肩までシーツをかけてくれる。

暖かい…

これまで苦労して準備してきたお金もなくなって、どん底を味わった気分だったのに。

こうして獅音の腕の中に包まれているだけで、不思議とまた頑張ろうと思えた。

でもこんな現実逃避のような時間は良くない事だ。
いつまでもこんな風に、獅音に甘えるわけにはいかない。

ましてや獅音は煌びやかな世界で活躍するギタリストだ。

私なんかが側にいたら迷惑をかけてしまう。
もし間違って写真でも撮られてしまったら…

そして私の事が公に出たら…

副業禁止の会社で夜はシンガーとして働いて、しかも歳を誤魔化して16から夜の店で働いて、借金まみれで…
おまけに家もない女だなんて。

そんな事絶対にだめだ。

絶対に。

私は眠る獅音にそっと口付けをする。

さよなら。ありがとう。

と心で唱えて、起こさないようにベッドから降りて私は獅音のマンションを後にした。

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