黒澤くんの一途な愛
「ありがとう、お嬢さん。助けてくれて」
「いえ。立てますか?」
「さっき、少し足を捻ったみたいで……」
「失礼しますね」
私はおばあさんの腰に腕をまわし、立ち上がるのを手伝った。
「お嬢さん、親切にありがとうね。あの、もうすぐここに孫が迎えに来るから。何かお礼を……」
「いえ、お礼なんていりませんよ。私は何もしてませんから」
足が心配だけど、お孫さんが迎えに来てくれるのなら大丈夫かな?
ブォンブォン。
「あっ、あのバイクの音……孫が来たみたい」
「それじゃあ、私はこれで……」
お孫さんが来たというおばあさんに声をかけ、私が歩き出そうとしたとき。
「あの、良ければせめてお嬢さんのお名前だけでも……!」
「花村栞里です」
「栞里さん……本当にありがとう」
私はおばあさんにペコッと頭を下げると、家へと向かって歩き出した。
「あれ? あいつ……転校生の花村栞里?」
歩いていく私を、後ろから誰かがじっと見ていたことも知らずに。