黒澤くんの一途な愛
「……璃久。やめときな」
突如として、廊下に誰かの落ち着いた声が響いた。
「花村さんが怖がってるよ」
そっと目を開けると、振り上げた黒澤くんの拳を赤松くんが掴んでいた。
「……すまない」
チラリと私に視線をやった黒澤くんが、ゆっくりと手を下ろす。
「はぁ〜っ。なんかアホらしくなってきた。もういいわ」
顎ピアスの男子がそう言ってスタスタ歩いていき、進藤くんも黒澤くんに軽く舌打ちをして去っていった。
お、終わったの……?
ホッとした私は、一気に肩の力が抜けた。
男子たちのケンカって、ほんと心臓に悪い。
「珍しいよね。いつも冷静なはずの璃久が、ブチ切れるなんて。何があったの?」
赤松くんが、黒澤くんに尋ねる。
「栞里があいつらのケンカに巻き込まれて、足を怪我したんだよ」
黒澤くんの視線を辿るように、赤松くんが私の右足首に目をやる。
「うわ、めっちゃ痛そうじゃん。花村さん、大丈夫?」
「う、うん。何とか……」
「栞里が怪我したと思ったら、頭に血が上って。どうしても許せなかった」
黒澤くん……。
彼の言葉に、胸がトクンと鳴った。