黒澤くんの一途な愛


誰かにお姫様抱っこをされるなんてことは、もちろん初めてで。


私は、顔から火が出そうになる。


「お、おろして! 黒澤くん」

「保健室に着いたら、おろす」


黒澤くんは、私を抱いたまま廊下を歩き出した。


私は思わず、黒澤くんの肩に両腕をまわす。


「花村さん! 璃久は、一度こうと決めたら絶対に曲げないから。観念したほうがいいよ〜」


赤松くんの声が、背後から聞こえた。


彼の声は、どこか楽しそうだ。


もう。こっちは、恥ずかしいのに……!


少しムッとしつつも、赤松くんの言いつけどおり、私は黒澤くんに身を任せることにした。


「ごめんね、黒澤くん。重くない?」

「重くない。むしろ、軽すぎるくらいだ」


昼休みの校内は、至るところに人がいるけれど。

私を抱えた黒澤くんが廊下を歩けば、生徒たちはみんな驚いた様子で壁際にサッと避ける。


まるでレッドカーペットでも歩いているかのような光景にも、みんなに注目されることにも私は慣れていなくて。


保健室に着くまでの間、ずっと俯いた顔を上げられないでいた。

< 52 / 106 >

この作品をシェア

pagetop