黒澤くんの一途な愛
誰かにお姫様抱っこをされるなんてことは、もちろん初めてで。
私は、顔から火が出そうになる。
「お、おろして! 黒澤くん」
「保健室に着いたら、おろす」
黒澤くんは、私を抱いたまま廊下を歩き出した。
私は思わず、黒澤くんの肩に両腕をまわす。
「花村さん! 璃久は、一度こうと決めたら絶対に曲げないから。観念したほうがいいよ〜」
赤松くんの声が、背後から聞こえた。
彼の声は、どこか楽しそうだ。
もう。こっちは、恥ずかしいのに……!
少しムッとしつつも、赤松くんの言いつけどおり、私は黒澤くんに身を任せることにした。
「ごめんね、黒澤くん。重くない?」
「重くない。むしろ、軽すぎるくらいだ」
昼休みの校内は、至るところに人がいるけれど。
私を抱えた黒澤くんが廊下を歩けば、生徒たちはみんな驚いた様子で壁際にサッと避ける。
まるでレッドカーペットでも歩いているかのような光景にも、みんなに注目されることにも私は慣れていなくて。
保健室に着くまでの間、ずっと俯いた顔を上げられないでいた。