そばにいてくれるなら
2
速水さんと出会って、1ヶ月程経ったある日


「……あれ?」


お昼終わり
食堂から教室へと戻る途中

渡り廊下を歩いている
見覚えのある人の姿を見つけて


驚きながらも、足は勝手に動いてた



「速水さんっ」


後ろから呼び掛ければ
歩いていたその人は足を止めて
振り返った


やっぱり速水さんだ


見間違いかと思ったけど
目の前にいるのは間違いなく、速水さんだった


もはや、見慣れたその顔

だけど、見慣れない制服姿に
ほんの少しの違和感


「びっくりしました
同じ学校だったんですね」


それほど、歳は離れてないとは思っていたけど
まさか、同じ学校に通っていたなんて…

すごい偶然だ


……ネクタイの色、紺…

てことは、ひとつ上…先輩だ


「言ってくれれば良かったのに」


初めて会ったあの日
私は制服姿だったから、速水さんは
同じ学校だって気づいてたはず

少し拗ねるように言いながらも
思いがけず会えたのが嬉しくて
笑顔を向ける


けど



「…」

「……速水さん?」

「……誰?」

「え…?」


じっと、観察するように
黙って私を見ていた速水さんは
不思議そうに口を開いた


その一言に、私は固まる


知らない相手に向ける視線に、言葉に動揺する


「はやみー?なにしてんの?」

「遅れんぞー」


多分、友達なんだろう

速水さんの先を歩いていた
先輩2人が立ち止まっていた速水さんを呼ぶ


「ごめん、急ぐから」


私が何か言葉を発する前に
速水さんは、静かにそう言って

そのまま去っていってしまった


「…」


ひとり残された私は
始業開始のチャイムが鳴るまで
ずっと、呆然とその場に立ち尽くしていた
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