君とライオン
 ――私はきらきらの一番星から生まれた女の子だって信じて疑わない。
 
 シルバーは百獣の王だ。この世界で誰よりも強く生きる肉食動物(彼)は、草食動物に狙われる花々(私たち)を守る。君たちを枯らさないことが僕の生存理由だと、彼は言う。草食動物を全て食らい尽くすまで、彼は死ねない。ライオンのものを彷彿とさせる、鋭い鉤爪を持つ彼は、伏し目がちに黒目をこちらへ向けた。黒の短髪にベージュのタキシードがよく似合う涼しげな風貌をしている。
「シルバー、昨夜は夢をみたの」
「どんな夢?」
 
『夢の中では、私がお姫様で、シルバーが王子様。お姫様と王子様は何不自由なく暮らしていたが、ある時、王子様が別のお姫様に魅了されてしまい、私は悲しい思いをしてしまう……』
 本当は、シルバーは最初から一度も私のことなんて見ていなかった。それが分かったのは、その夢から覚めた後だった。
 
「それは例え話にもなっていないよ」
「……もういいわ。帰る」
 森の中で、ベンチ代わりにしていた私たちの背丈の倍はある猫岩(キャットロック)から降りようと、よろけながら腰を上げて岩石の上に立ち上がると、横に座るシルバーが手を差し出す。
「アリス、待って。ここら辺は危ないからガーデンまで送るよ」
  私は自分より大きく角ばっている男性のその手を取った。外気でひんやりしていた自分の手が温まるのを感じる。
 私は花の中でも、能力が弱い。だからシルバーは心配してくれる。ゆるりと伸びた黒髪ロングヘア、赤色のドレスには花の模様があるリボンが胸元にある。年齢は変わらないのに、いつまでも子どものような私をシルバーは守ってくれる。でも、隣を歩いている彼の瞳には私は映っていないのを知っている。

 ガーデンまで着くと、シルバーは何処かへ行ってしまった。ここまで歩いてきた疲れがどっと来る。今日は勇気を出して夢のことを話したのに散々だった。まだ人間の姿にはなっていない黄色や青の薔薇の花々に囲まれて、私はその場に座り込んだ。
「アリス、もしかしてジャンヌに嫉妬しているのかい……?」
 現れたのは心惑わす、金髪の美しい青年。黒のタキシードに蝶ネクタイ、頭にはネコの丸っこい耳が付いている。大きめの瞳。童顔なのにどこか胡散臭い笑顔。こいつは、私のことをいつもからかってくる。いつか薔薇の棘を刺してやるから……!
「ルナー、どっか行ってちょうだい!」
 ルナーは笑みを崩さないまま、こちらに手を振って森の方へ消えて行った。

 ――ショートヘアに花飾り、緑色のドレス。ジャンヌは清純で、洗練された雰囲気を纏っている。シルバーに優しい微笑みを向けて、夜になるといなくなってしまうのだ。今夜は逃がさない。

『アリス、マテー』
 夜が更けて、森の中で小人のポールが私の後を追いかけてくる。ポールはこの森の住人で、小さな小さな妖精さん。
 
ポール(小人)の歌
『わがままアリスは、いじわるアリス
ジャンヌを追って、森に迷い込んだ
穴に落ちては、異世界へ

腹黒ジャンヌは、世界を救う
聖剣持って、ドラゴンに乗ってひとっ飛び!』
 
 ポールは未来に何か異変を感じているみたいだ。異世界? 聖剣? 何よそれ。
「ジャンヌ、待って!」
 私はジャンヌを追いかけて叫んだ!
「……アリス、付いてきたの? もう遅いから帰りなさい」
「シルバーのところへ行く気でしょう?」
 ジャンヌはため息をついた。その瞬間、世界がぐらぐらぐらと揺れる…….。
 
 カラン、コロンカラン……。
 背後で積み木のように形を成していたポールが崩れ落ちていく。私たちは真っ暗な穴に向かって、不思議の国へと落ちていった。
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