トレード‼︎ 〜婚約者の恋人と入れ替わった令嬢の決断〜
 目を丸くしている彼女たちに軽く会釈をしてから、わたくしは一度部屋に戻った。干していた毛布を取り込み、あのあまり意味をなさないテキストとノートを持って、マーセルが授業を受けている教室へ足を進める。

 一応、この学園内のことは頭に入れているから、迷うことなく辿りつけた。

 教室の扉を開くのと同時になにかが飛んできたので、思わず魔法を使って防いでしまった。マーセルの身体だけど、自分の思った通りに魔法は使えるみたいで安心だわ。

「……!」

 教室にいる人たちが、驚いたように目を大きく見開いて言葉を()んだ。わたくしは辺りを見渡して、マーセルの席を探す。

 ……とってもわかりやすかったわ。すっごく汚れていたから。小さく息を吐いて、机をきれいにした。魔法を使ってきれいにするのは、あまり好きではないけれど、このままの状況では授業を受けられない。

 椅子に視線を落とすと、椅子にもべったりとインクが塗られていた。マーセルが持っている制服は今着ている制服一着のみ。

 つまり、制服を汚して授業に出られないように仕向けているってわけね。

 ニヤニヤとしている人たちが見えて、そっと頬に手を添えて小さく息を吐いた。そして、本当に(あわ)れんだ声でつぶやく。

「……可哀想な人たちね」
「な、な……!」
「こんな幼稚なことをして。自分たちの品性を落とす行為だということを、理解していないのでしょう? この国の民でありながら……(なげ)かわしいわ」
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