トレード‼︎ 〜婚約者の恋人と入れ替わった令嬢の決断〜
「では、最後にマーセルさん、お願いします」

 先生に声をかけられ、立ち上がる。

 歩いている途中、くすくすと嘲笑(あざわら)うような声が聞こえた。

 いつも侍女が淹れてくれるお茶の淹れ方を思い出しながら、お茶を淹れてみようとして気付く。茶葉に対して、お湯の量がかなり少なりそうということに。

「先生」
「なんでしょうか?」
「お湯が足りないので、足してもよろしいですか?」

 先生は目を丸くして、わたくしの手元を覗き込んでくる。そして、「おかしいですね……?」と口にした。

 あれだけたっぷりの量を用意していたはずなのに、と小声でつぶやいていた。誰かが間違えしまったのか、それとも、ただ単にマーセルへの嫌がらせなのか。

「魔法で足しても?」
「え? ですが、マーセルさん……あなた、魔法が使えないのでは……?」
「大丈夫です」

 すっと水を作り上げて、次に熱する。沸いたらポットの中に入れた。この程度の魔法なら、誰でも使えるはずだけど……マーセルは使えなかったのかしら?

 だとしたら、『カミラ』の身体に入ったマーセルは、魔法が使えるのかしら? 今日の予定は実技だから……どうなったのか気になるわね。

 いえ、それよりも……ちゃんと学園に登校できたのかも気になるわ。

 あ、いけない。紅茶を淹れるんだったわね。侍女の淹れ方を思い出しながら淹れたら、そここそ上手にできた。

 お茶の味も先生に好評だったから、もしかしたらわたくし、召使に向いているのかもしれないわね、と思わず口角を上げる。

 ――こうして、なんとかその日の授業を乗り切った。
< 16 / 72 >

この作品をシェア

pagetop