トレード‼︎ 〜婚約者の恋人と入れ替わった令嬢の決断〜
 ……マーセルとのトレード期間が終わったらどうなるのかしらね?

 そのうち自分の身体に戻るとは思うのだけど……なかなか快適だから、わたくしはこのままでも構わないわ。マティス殿下の存在を除けば。

 すべての授業を終えてわたくしが放課後、図書室に向かおうとすると声をかけられた。

 ――マティス殿下に。
 みんなの視線が痛いわ。彼は王族だから注目を集めることに慣れているのよね。わたくしも公爵家の令嬢だから、見られることには慣れている。慣れてはいるの……でも、こういうのってあまり好きではないわ。

「マーセル、今日の放課後は……」
「申し訳ありません、マティス殿下。わたくし、図書室に行こうと思いますの。授業の復習をしたくて……」

 心底申し訳なさそうに眉を下げて微笑んでみせると、彼は残念そうにしゅんとして「そうか……」とつぶやいた。

 ぺこりと頭を下げてから、足早に図書室に向かう。

 ふぅ。周りはわたくしがマティス殿下の誘いを断ったからざわついていた。きっと、『マーセル』がマティス殿下の誘いを断ることはなかったんでしょうね。

 図書室に入り、今日の授業の復習をした。必要そうな資料を集めて予習もする。マーセルは魔法が使えなかったのに、どうして彼女の身体に入ったわたくしは使えるのかしら? それについての資料も探してみたけれど、あまり参考になりそうな本はなかった。
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