トレード‼︎ 〜婚約者の恋人と入れ替わった令嬢の決断〜

授業態度の改善。

 とりあえず、トレード後のマーセルが、マティス殿下の隣に立っていても大丈夫なように、いろいろと模索しなくてはいけないわね。

 わたくしの今後の身の振り方も。

 家族に愛されようとがんばって隙のない公爵令嬢を演じていたけれど、家族はわたくし自身には興味を持たなかった。

 愛されようともがけばもがくほど、どん底に落とされることを知った。それでも諦めきれなくて、努力だけは(おこた)らなかったのよ、わたくし。

 マティス殿下の婚約者として発表されたあとも、『第一王子に相応しい婚約者』であり続けようとした。

 ……隙のない女性って面白味が欠けるのかしらね。マティス殿下はこの学園に入ってから、あっという間にマーセルと恋仲になってしまった。この学園に通うのは貴族しかいないから、『カミラ』がマティス殿下の婚約者だと知らない人はいないのよね。

 ちなみに今は、ホールから教室に移動して、チクチクと刺繍を作っているわ。いろいろ考え事ができてちょうどいいわね、この作業。

 公爵家の令嬢として叩き込まれた刺繍の腕も、ここで発揮できるとは……。なんでもプラスになるものだわ。やっていて良かった。

 ……それよりも、ぐちゃぐちゃになっている『マーセル』作の刺繍のほうが気になるわ。明らかに彼女以外の手が加わっているのだもの。……こんなことをしているのがこの国の貴族だなんて、本当に悲しいことだわ。

「マーセルさん、とてもきれいな刺繍ですね」
「ありがとうございます、先生。少々難しいところがあるのでお(たず)ねしたいのですが……」
「はい、構いませんよ」
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