トレード‼︎ 〜婚約者の恋人と入れ替わった令嬢の決断〜
 先生は丁寧に教えてくれた。きれいな刺繍を作り上げるのはなかなか大変よね。

 それにしても……教室がこんなにしんと静まり返っていると、逆に不気味だわ。

 チクチクと針を進めながら、ぼんやりとそんなことを考えつつ、バラの刺繍を終えた。

 うん、我ながらうまくできたわ。作り上げたものを先生に渡すと、先生は受け取って「お疲れさまでした」と微笑む。

 刺繍の時間はこれでおしまい。できあがった人から休憩時間になるようで、終わった人は教室から出ていく。なんとも緩い授業ね。次の授業まで暇になったし……ちょっと散歩しようかしら? 西棟に来ることってないから、今のうちに見て回りましょう。

 西棟を歩いてみたけれど、東棟とあまり変わらなかった。ちょっと教室の数が多いくらいかしら?

 傭兵学科と召使学科って、騎士学科と魔術師学科より教室が多いのね。それだけ学生の数も違うのかも。あまり考えたことはなかったわね。

「あら、花壇」

 ……育ってないけど。

 わたくしがしゃがみ込んで花壇を眺めていると、後ろから声をかけられた。クロエだったわ。びっくりした。
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