トレード‼︎ 〜婚約者の恋人と入れ替わった令嬢の決断〜
「どうして『マーセル』が嫌がらせを受けるようになったのか、知っているのなら教えてちょうだい?」

 クロエの瞳が揺れる。彼女は辺りを見渡して、誰もいないことを確認すると、わたくしの隣にしゃがみ込んでぽつぽつと話し始めた。

 どうして、『マーセル』が嫌がらせを受けていたのかを。

「元々、『マーセル』はとてもよくできた子でした。男爵令嬢として、胸を張って学園の授業を受けていたのを、見たことがあります。ですが、ある日……ぱたりと彼女は魔法を使えなくなったのです。この国で魔法を使えない人はいないでしょう? その頃から、授業を休みがちになり、部屋に(こも)るのもいやだったのか、授業を堂々とさぼるようになったらしいです」

 クロエは淡々とした口調で教えてくれた。

「屋上でこっそりと泣いているときに、マティス殿下と出会い、慰められたそうです。殿下はマーセルを励まし、彼女が魔法を使えるように様々なことを試した……とのことです」
「詳しいのね」
「すべて、マティス殿下から聞きました。……それで、一緒にいる時間が長くなり、それを面白く思わない学生たちが、『マーセル』のことを排除しようと嫌がらせが始まったみたいです」

 ……なるほど。彼女にそんな事情があったとは知らなかったわ。

 マティス殿下が『マーセル』の(そば)にいたのも、そういう理由があったのね。

 きっと、一緒にいるうちに惹かれていったんでしょうね……ロマンチックな話だわ。なんて、つい考えてしまった。
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