トレード‼︎ 〜婚約者の恋人と入れ替わった令嬢の決断〜

いったい、なにをしたの……?

 その後も順調に授業を終えて(すべて家庭教師から習ったところだった)、放課後になった。教室に残っていると、チクチクと刺さるような視線を感じる。

 ひそひそと話しているのが聞こえるけれど、聞こえるように言うくらいなら、面と向かって言ってほしいわ。そうすれば、わたくしも反応できるもの。

 ……こういうひそひそ話でわたくしの気を引いて、もしも反応すれば「あら、マーセルのことではなくてよ」とにやにや顔で言われるのでしょうね。それがわかるから、反応しないことが一番ね。

 五分もしないうちにレグルスさまが教室にきて、わたくしを見つけるとパチンとウインクした。……ウインクするのが趣味なのかしら、彼。

「待ったかい?」
「いいえ、行きましょう。それと、クロエという女性も一緒で構わないかしら?」
「もちろんさ」

 椅子から立ち上がり教室を出ていこうとすると、バサッとテキストを落としてしまった。それをレグルスさまが拾い上げ、驚いたように目を見開き、それからパラパラとテキストを(めく)って眉根を寄せた。

「なぁ、これ読めるのか?」
「いいえ、全然。そこまで汚されると読めるわけ……ないでしょう?」

 真っ黒に塗りつぶされたテキスト。中には馬鹿だのブスだの調子に乗るなだの、よくもまぁ、ここまで低俗なことができると感心してしまうくらいの、罵詈雑言(ばりぞうごん)が書かれていた。レグルスさまはじっとテキストを見て、それからわたくしに問いかける。
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