トレード‼︎ 〜婚約者の恋人と入れ替わった令嬢の決断〜
 わたくしの顔で神妙な表情を浮かべているマーセル。……こういう顔もできるのね、わたくしって。そんな変なことを考えながらも、ふと気になっていたことを口にする。

「どうして、マティス殿下に近付いたの?」
「……最初は、カミラさまの婚約者がどんな方なのか、気になったんです。完璧な公爵令嬢の婚約者ですから、彼も完璧な王子なのか気になって……ですが、彼を知っていくうちに、私は……マティスさまを好きになってしまったのです」

 つらそうに話すマーセルに、わたくしの心は動かなかった。自分でも驚くくらいに。

 興味本位で近付いて、好きになったから身体の関係を許したということなの?

「……マーセル。貴女、マティスと付き合っているの?」

 小さくうなずいたのを見て、大きなため息を吐いた。

 それを聞いてびくりと身体を震わせる。わたくしがいじめているみたいじゃないの。

「婚約破棄を、公爵さまにお願いしました。ですが、『そんなことは許さない』って。私が歩いていると、公爵夫人が『変な歩き方をしないでちょうだい』って……。ずっと見張られていて、魔法が使えないことに気付くと公爵夫人が……」

 自分を抱きしめるように二の腕を掴み、ぶるぶると身体を震わせる。どうやら、激しく折檻(せっかん)されたようね。

 お母さま、そういうところがあるから。

 むしろ、わたくしを使ってストレス発散でもしていたんじゃないか、と考えるくらいに。

「……ねぇ、マーセル。わたくしがどうして泣いていたのか、教えてあげるわ」
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