トレード‼︎ 〜婚約者の恋人と入れ替わった令嬢の決断〜
 ……会ったこと、あったかしら?

 パーティーにはほぼ毎回参加していたけれど(マティスの婚約者として)、参加者全員の顔を覚えていたわけではないから……

「マティスさまと踊るカミラさまは、とてもきれいで……。ただ、マティスさまが笑っていないのが気になって……思えば、こんなにきれいな人が婚約者なのに、どうしてマティスさまは寂しそうなのかしらって……そんなことを、マティスさまに話しました」

「親同士が決めた婚約ですもの。……ああ、本来なら貴女がマティス殿下の婚約者なのよね」

 あの話が本当だとしたら、マティス殿下の隣に立つのはわたくしではなくマーセルだ。

 ゆっくりと息を吐いて、天井を見上げた。そんな理由でマティス殿下に近付いたのね。

 そして、彼はマーセルを選んだ。……これが惹かれ合うということなのかしら?

「マティス殿下はマーセルを選ぶでしょう。ただ、わたくしには貴女たちに対して、慰謝料を請求する権利があるわ」
「カミラさま……」
「当然、その覚悟があって、マティス殿下と付き合ったのでしょう?」

 天井を見つめていた瞳を、マーセルへ向ける。彼女は「あ……」とわかりやすく青ざめた。
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