〜Midnight Eden〜 episode3.【夏霞】
「ユミはその時は理世の存在知らなかったの?」
「彰良はツイッターやインスタでは私の存在匂わせてなかったんだ。ユミも彰良が彼女持ちって知らなかったんだろうね。それは彰良が悪いんだけど、問題はそこからだよ。彰良はライブの日から、“ちゃっかり”ユミと親密になってたの」

 そして桜が散り4月も半ばに入る頃、デートの最中に告げられた彰良の残酷な一言。

 ──“俺達、友達に戻ろう”──


「自分は友達って枠で元カノをキープしておきながら、浮気相手と継続して遊ぶって元カノの理世にも浮気相手にも誠実じゃないよね」
「都合良すぎるよね。彰良の優しさって全部、偽善と自己愛なんだよ。自分がイイ人でいたいから優しいだけだったって、別れ話の時に気付いた」

 別れを告げる側は時として残酷にならなければいけない。残酷が相手への精一杯の誠意になると彰良は知らなかった。
『友達に戻ろう』は優しい仮面を被った最低な言葉だ。

 悪者になりたくないから優しい人間のフリをする。そうやって理世をどこにも行けないように繋ぎ止めて、自分は自由の身になり羽ばたいていく。

優しいフリをした男の、偽善で身勝手で最低な一面を知るのは理世だけ。

「一度でも恋愛感情があった男と女が簡単に友達になれるわけないよ。友達だったとしても、都合の良いセフレ要因に使われるだけ」
「それがさ、彰良は男女の友情成立派だったの。私が嫌がっても平気で女友達と二人で会ってたりしてたんだ」

 理世と彰良の交際期間はわずかに半年。その半年間、彰良は何度も理世には黙って女友達と二人で食事に行っている。

女と二人で出掛けるのは嫌だと理世が泣いても喧嘩をしても、彰良は何がいけないのか少しも理解していなかった。

「異性の友達だけど下心ないならセーフって思ってるタイプいるよねぇ」
「ねー。どこからが浮気? って聞いてくるタイプもね。二人で食事だろうが映画だろうが、付き合ってる相手が嫌がってる時点でそれは浮気だろって思う」

 理世と香乃のグラスはすでに空。まだまだ話足りない二人は追加オーダーを頼んだ。

 テラス席で身を寄せ合うカップルを遠巻きに眺めて、理世はインスタグラムのアプリを開く。
先ほど香乃とこの店で撮ったツーショット写真が香乃のプライベートのアカウントに投稿されていた。

 理世も香乃もヘアサロンとネイルサロンの専用インスタグラムには、スタッフとして顔を載せたりクレジットに名前が載る場合もある。

それとは別の個人のプライベートなSNSは二人とも、限られた人間にしか閲覧できない非公開アカウントにしている。非公開だからと言って出身校名や本名の記載もしない。

 プライベートなアカウントをサロンの客に特定されないようにするためだ。ビジネスとプライベートの線引きはSNS上でも保っていたかった。

「彼氏の付き合いを全部制限するつもりはないんだよ。私だって、仕事終わりに流れで男の同僚と二人でご飯行くこともある。そうやって仕事の後についでに飲み行って仕事の相談したり、忘年会みたいな大人数の飲み会は付き合いだから仕方ないよね」
「理世が嫌なのは、休日に女友達と二人で会うってことでしょ?」
「そう! わざわざ二人の予定合わせて、待ち合わせの時間と場所決めて、二人でご飯やライブや映画行ったり……それってもう恋人とするデートと変わらないでしょ」

 美容師の理世の休みは定休日の火曜日とシフトによって水曜か木曜。土日の休みはほぼない。
対してサラリーマンの彰良の休みは土日。
デートはいつも平日のどちらかの仕事が終わった夜にしていた。
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