〜Midnight Eden〜 episode3.【夏霞】
「いくら私と休みが合わないからって、私の代わりに他の女と二人で会うってことが許せなかった。私の代わりなんていくらでもいるんだと思うと、虚しくなったの」

 代わりのいない存在だから“恋人”ではないのか。いくらでも替えの効く存在だと知らされた時に理世の心に生まれた虚無感。

食事もライブの同伴も映画も、相手は誰でも務まる。恋人と休みが合わなくて休日を共に過ごす相手がいないとしても、相手は異性の友達でなくてもいいはず。

 そして最終的に彰良は理世と“友達”になろうとした。
好きだと告白してきたのも、別れを切り出したのも彰良だ。

最後は“友達”を求めるのなら、どうして最初は“恋人”になろうとした?

「誠実な男は彼女が嫌がってるなら女友達と二人では会わないよ。女側も彼女の立場や気持ちを考えられる人は遠慮するもん。お客さんでも、彼氏の女友達に悩まされてる女の子多いよ」
「やっぱり彼氏の女友達は厄介だね。“私は彼氏が他の女の子と二人で会っていても気にしないけどぉ”、って女もいる。この世で一番うざい女」
「いるいる。あんたが気にしなくても男の彼女は嫌がるかもと思えない、想像力が欠如してる女ね。浮気相手の写真あったっけ?」

 エビのアクアパッツァを頬張りながら理世はスマホの写真フォルダをスクロールする。数多《あまた》ある画像の一覧からとある写真のスクリーンショットを探し出した。

「インスタに顔写真載ってた」
「……うわぁー。コレに負けたのは悔しいね。私でも荒ぶるわ」
「でしょ? “コレ”だよ? 外見レベル四軍女に負けた屈辱は計り知れない」

 ユミのインスタグラムの過去の投稿を遡るとユミは自分の顔写真を載せていた。

腫れぼったく細い一重瞼の目元に、輪郭が大きな顔はお世辞にも整った顔立ちとは言えない。美人か不美人ならば不美人の類いの女だ。

 この程度の顔で恥ずかしげもなくSNSに無加工の素顔を晒せるユミは、よほどの自信家か怖いもの知らず、どちらだろう?

「あとね、この子の大学時代の写真も見つけた」
「おお、よくそんなの見つけたね」
「自分で大学の名前や、入ってたサークルのヒントになるようなことツイッターに書いてたからね。心当たりがある大学とサークルの検索かけたらサークルのブログにドンピシャで写真載ってたんだ」

 何の警戒心もなく出身校や所属サークルをSNSで匂わせる人々は、それだけでも個人を特定する情報になり得るとわかっていない。
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