〜Midnight Eden〜 episode3.【夏霞】
 ユミも自分の情報を無意識に外部に晒していた。情報の出し引きを使い分けている理世や香乃からすれば、ユミのSNSの使い方は馬鹿の一言。

「結局、このユミって女が浮気相手から彼女に昇格したの?」
「わからない。別れてからしばらくは彰良と連絡取ってたけど、あいつは彼女ができたとは一言も言わなかった」

 彰良自身の口から新しい恋人の存在を示す言葉は一言も聞けなかった。理世と連絡を取り続ける傍らで、彰良が新しい恋を同時進行で進めていたかと思うと腹わたが煮えくり返る。

「けど、4月にユミとライブに行ってからはそれまでツイッターでは二人とも敬語のやりとりだったのが敬語じゃなくなって、急に口調が馴れ馴れしくなってる。距離感が近いって言うか……」
「いかにも4月のライブを境に二人の関係に変化がありましたってバレバレじゃん」

 二人は追加で注文したカクテルで再び乾杯をした。理世はモスコミュール、香乃はジンリッキー。

ネガティブな感情のデトックスは食欲を加速させる。アクアパッツァやチーズの盛り合わせ、パエリアなど、テーブルに並ぶ料理が次々と理世と香乃の胃袋に収まった。

「ほんと露骨だよね。先週も二人で鎌倉行ってたよ。泊まりで」
「泊まりって……もう黒だね」
「黒だよね。普通は異性の“友達”と泊まりはしないでしょ。二人のインスタ見る?」
「見る見るぅ」

 ちょうど1週間前の週末、梅雨の時期に彰良とユミは鎌倉に一泊二日の旅行に出掛けていた。二人のインスタグラムには、それぞれ鎌倉の主要な観光名所の風景が似た構図で載せられている。

「これは確実にヤってるな。一線越えました感をぷんぷん匂わせまくり」
「私と別れて2ヶ月だしヤってるだろうね」

泊まりがけで出掛けた男と女が同じ日に同じ場所の写真をSNSに載せる。典型的な恋人アピールは、お決まり過ぎて反吐《へど》が出る。

「人の好みは千差万別とは言うけどさ、元カレはこのぽっちゃり顔デカ女で勃つんだね。関係ない私までショック受けてる……」
「わかる。未練とかじゃなくて、上手く言えないけど、女としての本能的なショックがある」
「男は突っ込めて出せる穴があればなんでもいいのか。元カレって本当はB専とデブ専?」
「ちょっと香乃ぉー。酒が不味くなること言わないでぇ」

 心にくすぶる感情は未練? 執着? 嫉妬? 怒り?
どれでもなくてどれでもある。
沸き上がる黒いマグマが心の中心で噴火した。

世の中は因果応報だ。他人の不幸の上に成り立つ幸せは存在しないと、あの二人にわからせてやりたい。


 ──人の心をズタズタに傷付けたくせにお前達だけ笑顔になるな──


 湿った梅雨空に悪口の花が咲く、2016年の夜の出来事だった。
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