雪が舞う頃に

 車は数十分走り続けて、隣の市にある公園にやってきた。
 そこそこの大きさのあるこの公園には、クリスマスに向けたイルミネーションなどが多く飾られている。

 すでに日が落ち、辺りが暗くなった公園で、わずかな街灯とイルミネーションだけが私たちを照らす。カップルや家族など周りには人が多くいたが、みんな上を向いて、眩しく輝く光を嬉しそうに見つめていた。
 
「……裕哉さんっ」

 人目を気にせず、先生の腕にぎゅっと抱きつく。紺色のフレンチコートの生地を肌で感じながら抱きつく腕に力を入れると、先生は「痛いです……」と呟きながら優しく微笑んでいた。

 空を舞う雪が光に照らされ、ひとつひとつが輝きを放つ。
 雪を掴んでみようと左腕を伸ばすも、その雪は私の手のひらに冷たさを残すだけで、あっという間に消えて行ってしまう。

 隣にいる早川先生も、いつか消えて行ってしまったりして。
 雪の儚さに先生の姿を重ねてしまい、つい涙が滲んでしまう。

 会えなかった期間は〝たった数ヶ月〟かもしれない。だけど私にとっては、辛くて長い日々だった。変なことを考えるくらいには、私も精神的にきていたのかもしれない。

「真帆さん、出店があります。牛串食べますか?」
「……クレープを食べます」

 高校1年生の時も、先生と一緒にイルミネーションを見た。そこで私は大好きな牛串を食べたのだ。
 その事実を覚えてくれているのが嬉しい反面、成長した私は恥ずかしさの方が勝った。大好きな人の前で牛串をチョイスするなんて、当時の私はすごいと思う。

「牛串、お好きだったでしょう」
「そうですけど、裕哉さんの前では恥ずかしいです」
「……なぜですか。頬を膨らませて頬張る真帆さん、可愛かったですけどね」

 そう言って微笑んでくれた先生と一緒にクレープの列に並び、イルミネーションを眺める。私の肩に腕を回してくれた先生の手が仄かに温かくて、また涙が滲んだ。

「……真帆さん」
「すみません。私、どうしたのでしょうね」

 どうやら私の涙腺はとうに崩壊していたようで、止め処なく溢れる涙は止まる気配がない。先生は優しく目元を拭ってくれながら、肩をさらに強く抱きしめてくれた。
 周りはイルミネーションに夢中で、誰も私たちのことなど見ていない。人の目を気にせずに先生と抱き合っているその状況が、なんだかとても居心地よく感じた。



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