lavender girl 【あの日の君を探して】
清美は市内のデパートに就職して社会人になった。
俺はというと狙っていた大学の文学部に失敗してバイトしながら勉強を続けていた。 その間にも公募を見付けては書いたばかりの小説を送り続けていた。
その勢いに任せて家を飛び出した俺は大阪にまでやってきた。
古いアパートに転がり込んでバイトしながらいつも何かを書いている。
管理人だって言うばあちゃんに書いた原稿を読ませてみる。 ばあちゃんはそれをおずおずと読み始める。
「あんたなあ、これだけの物を書くんやったら新聞社にでも入ったらどないやの?」 「知り合いでも居るんですか?」
「ああ。 息子の友達の友達の弟の友達の息子が働いとるんや。 聞いたるわ。」
そんな当てになるようなならないような話を聞きながら俺はまた書き続けるのである。
(あんな美味い話は無いよなあ。) 四畳半の小さな部屋でラーメンを啜りながら俺は考えた。
卒業の記念に部室から持ってきた県大会の賞状が壁に張り付いたまま俺を見詰めていた。
そのばあちゃんから返事が返ってきたのは一カ月後のことだった。 「あんた、西済新聞って知ってるか?」
「これだろう?」 俺は読んでいた新聞をばあちゃんに見せた。
「おー、これやこれや。 あんた読んどったんかいな。 それやったら話は早いわ。」 「そこの人が働いてもええって言うてきたんや。」
「ほんまかいな?」 「ほんまやで。 うちは嘘吐かんから。」
それで名刺を受け取った俺はその日のうちに話を済ませて働くことを決めた。
先輩だっていう吉永卓夫さんはめっちゃ厳しい人で、挨拶から姿勢まで軍対みたいに叩き込んでくる。
「音を上げるのは今のうちやで。 半年経ったら文句は受け付けんからな。」 熊みたいな顔で襲いかかってくるから正真正銘のスパルタ野郎である。
「こら! その挨拶は何や! 弛んどるで。 罰として買い物に行ってこい!」 吉永さんは絶対に手は出さない。
その代わりにあの顔で睨み付けながら買い物を申し付けてくる。 煙草とかジュースとか、、、。
他にもいろんな用事を申し付けてくるから気が抜けないんだ。 でも取材にくっ付いていくとさすがに教えられることは多い。
ある日、家の前の溝掃除をしていた吉永さんに溜まりかねて聞いたことが有る。 「先輩、そんなことまでやるんですか?」
「アホ! 取材させてもらうんや。 何もせんと飛び込んだら相手かていい気はせんやろう。 「こんだけやってくれたんか。 じゃあ話してもええかな。」って思わせるくらいのことをせなあかん。」
そう言いながら彼は作業を続けるのである。 「俺たちは話を聞くんやない。 聞かせてもらうんや。 分かるか?」
取材が終わってコーヒーを飲みながら吉永さんは俺を諭すように言うのであった。
その日から俺の記者生活が始まったんだ。 アパートに帰ってくるのは10時を過ぎた頃だ。
カップラーメンを流し込んで毛布にくるまる。 朝日が昇ったらさっさと飛び起きて取材現場へ直行する。
少しずつ記者会見なども体験させてもらうようになる。 でもまだまだ質問することは出来ない。
吉永さんの後ろで先輩方の仕事ぶりを拝ませてもらっている。 休みの日には疲れた頭で小説を、、、。
ところがこれがまた1行も進まない。 頭が疲れすぎているようだ。
そんな俺を見て吉永さんは笑った。 「おいおい、半年くらいでそんなに疲れたか?」
「そりゃあ、、、。」 「まあなあ、こんな都会に一人で出てきたんや。 疲れるわなあ。 彼女くらい居らんのか?」 「居ましたけど、、、。」
「今は居らんようやなあ。 じゃあ俺がええ所に連れてったるわ。 今晩付いて来い。」 「ええ所?」
「お前も若いんや。 やりたいやろう?」 「何を?」
「女や 女。」 今日の吉永さんは機嫌がいいらしい。
他の記者にそれとなく聞いてみた。 「ああ。 それやったら素直に喜んで行って来い。 あの人はそうやって新人を鍛えてきたんや。」
「なるほどね。」 それで俺は文句を言わずに付いていくことにした。
俺はというと狙っていた大学の文学部に失敗してバイトしながら勉強を続けていた。 その間にも公募を見付けては書いたばかりの小説を送り続けていた。
その勢いに任せて家を飛び出した俺は大阪にまでやってきた。
古いアパートに転がり込んでバイトしながらいつも何かを書いている。
管理人だって言うばあちゃんに書いた原稿を読ませてみる。 ばあちゃんはそれをおずおずと読み始める。
「あんたなあ、これだけの物を書くんやったら新聞社にでも入ったらどないやの?」 「知り合いでも居るんですか?」
「ああ。 息子の友達の友達の弟の友達の息子が働いとるんや。 聞いたるわ。」
そんな当てになるようなならないような話を聞きながら俺はまた書き続けるのである。
(あんな美味い話は無いよなあ。) 四畳半の小さな部屋でラーメンを啜りながら俺は考えた。
卒業の記念に部室から持ってきた県大会の賞状が壁に張り付いたまま俺を見詰めていた。
そのばあちゃんから返事が返ってきたのは一カ月後のことだった。 「あんた、西済新聞って知ってるか?」
「これだろう?」 俺は読んでいた新聞をばあちゃんに見せた。
「おー、これやこれや。 あんた読んどったんかいな。 それやったら話は早いわ。」 「そこの人が働いてもええって言うてきたんや。」
「ほんまかいな?」 「ほんまやで。 うちは嘘吐かんから。」
それで名刺を受け取った俺はその日のうちに話を済ませて働くことを決めた。
先輩だっていう吉永卓夫さんはめっちゃ厳しい人で、挨拶から姿勢まで軍対みたいに叩き込んでくる。
「音を上げるのは今のうちやで。 半年経ったら文句は受け付けんからな。」 熊みたいな顔で襲いかかってくるから正真正銘のスパルタ野郎である。
「こら! その挨拶は何や! 弛んどるで。 罰として買い物に行ってこい!」 吉永さんは絶対に手は出さない。
その代わりにあの顔で睨み付けながら買い物を申し付けてくる。 煙草とかジュースとか、、、。
他にもいろんな用事を申し付けてくるから気が抜けないんだ。 でも取材にくっ付いていくとさすがに教えられることは多い。
ある日、家の前の溝掃除をしていた吉永さんに溜まりかねて聞いたことが有る。 「先輩、そんなことまでやるんですか?」
「アホ! 取材させてもらうんや。 何もせんと飛び込んだら相手かていい気はせんやろう。 「こんだけやってくれたんか。 じゃあ話してもええかな。」って思わせるくらいのことをせなあかん。」
そう言いながら彼は作業を続けるのである。 「俺たちは話を聞くんやない。 聞かせてもらうんや。 分かるか?」
取材が終わってコーヒーを飲みながら吉永さんは俺を諭すように言うのであった。
その日から俺の記者生活が始まったんだ。 アパートに帰ってくるのは10時を過ぎた頃だ。
カップラーメンを流し込んで毛布にくるまる。 朝日が昇ったらさっさと飛び起きて取材現場へ直行する。
少しずつ記者会見なども体験させてもらうようになる。 でもまだまだ質問することは出来ない。
吉永さんの後ろで先輩方の仕事ぶりを拝ませてもらっている。 休みの日には疲れた頭で小説を、、、。
ところがこれがまた1行も進まない。 頭が疲れすぎているようだ。
そんな俺を見て吉永さんは笑った。 「おいおい、半年くらいでそんなに疲れたか?」
「そりゃあ、、、。」 「まあなあ、こんな都会に一人で出てきたんや。 疲れるわなあ。 彼女くらい居らんのか?」 「居ましたけど、、、。」
「今は居らんようやなあ。 じゃあ俺がええ所に連れてったるわ。 今晩付いて来い。」 「ええ所?」
「お前も若いんや。 やりたいやろう?」 「何を?」
「女や 女。」 今日の吉永さんは機嫌がいいらしい。
他の記者にそれとなく聞いてみた。 「ああ。 それやったら素直に喜んで行って来い。 あの人はそうやって新人を鍛えてきたんや。」
「なるほどね。」 それで俺は文句を言わずに付いていくことにした。