528ヘルツの奇跡
 学級通信に書かれていたのは、県内で開催される朗読コンテストの中学生部門の参加者だった。こんなの募集してたのも知らないし、ましてや参加なんてするはずがない。

 でも確かに自分の名前があるし、ご丁寧にピンクのマーカーで囲ってある。

「あたしが先生に言って申し込んであげたの!」

 隣に立っていた剛里さんが意地悪そうに笑いながらそう言った。始めは彼女が何を言っているのか理解できなかった。

「ほら、森さんってSNSに投稿するくらい朗読が得意なんでしょ? だから、きっとこれも参加したいだろうなって思って」

「だ、だから、あれは違うってば! ……こんなの、困るよ……」

「えー? 声が小さくてよく聞こえないけど、応募してくれてありがとう、って言ってる? そんなのいいのにー! だって、友達でしょ?」

 友達なんかじゃない。剛里さんと、友達になった覚えはない。だってこんな酷い事をする人と、友達になんてなりたくない。

「せ、先生に言って、取り消してもらう……」

「ああ、そういえば、応募は昨日で締め切りだったから、もう取り消し出来ないって先生言ってたよ! 良かったね、ギリギリで間に合って!」

 膝がガクガクして、その場で座り込んでしまいそうだった。絶望で体中から血の気がひいている気がした。

「朗読動画投稿してる『ヨム』なんだから、朗読コンテストなんて楽勝でしょ!」

「あ〜! あの『ヨム』が参加する朗読コンテストなんて超レアじゃない?」

「頑張ってね『ヨム』! 応援してるから!」

 剛里希星の取り巻きたちが、てんで勝手に囃し立て始めた。教室にいるクラスメイトたちは、聞いているのに聞いていないフリ。いつもそうだ。誰も助けてなんてくれない。
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