528ヘルツの奇跡

03・迷子のクジラ

 思いもかけない事が起こった。

 そんなの想像もしてなかったし、まさかこんな事があると期待もしていなかった。

 協力者……仲間、と呼んでいいのかな。友達って呼ぶのはまだおこがましい。でも、なんだか嬉しい。

 放課後に、剛里さんたちが絶対に来ないであろう図書室で朔間くんと秘密の待ち合わせをしていた。教室を出る時間をずらしたからまだ彼は来ていない。

 図書室の一番奥、古い資料が並べられている本棚。古い紙の匂いが溜まってる。人もいなくて、しんとして静かな空間。

 ……本当に、朔間くんは来るのかな。

 全部私の夢だったらどうしよう。そうだったらいいな、っていう私の願望だとしたら……

「――悪い、遅くなった」

 もやもやと考えていたら急に声をかけられ、飛び上がる程びっくりしてしまった。私の驚きように朔間くんはきょとんとして立っていた。

 良かった、夢じゃなかった。

「とりあえず先生に、朗読コンテストの概要聞いてきた」

 凄いな……協力してくれるって言ったの昨日だったのに、もう動いてくれてる。当の私は、まだなにもしてないのに。

 朔間くんに促され、窓沿いに備え付けられている閲覧席に並んで座った。朔間くんはプリントを一枚渡してくれた。

「先生の説明とこれ見たら、わりと大きい大会みたいでさ、部門がいくつかあるらしい。子供部門と中学高校生部門――」

 ――部門は三つ。小学生までの子供部門、私がエントリーしている中高生部門、あとは大学生とか大人の一般部門。まずは予選として、課題に出された文章を朗読して録音したものをコンテスト本部に送る事になっているらしい。

「その予選、期間が短くて、今月末締め切りなんだ。ちょっと頑張らないとまずいかもしれない」

「う、うん……」
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