528ヘルツの奇跡
「あとさ、先生に聞いたんだけど……」
そこまで言うと朔間くんは言いにくそうに口を一度閉じた。なんだろう?
「あの剛里希星の兄も、一般部門にエントリーしてるらしい」
ああ……剛里さんがどうして急に朗読なんて言い出したのかと思ってたけど、その理由が分かった気がした。
剛里希星には年の離れた大学生のお兄さんがいる。そのお兄さんが声優になったって、春頃凄く自慢していた。実際は、深夜アニメのモブで、ちょこっと出ただけだったらしいけど。
そのお兄さんが演技か何かの練習のつもりで、今回のコンテストにエントリーしているそうだ。
だからきっと私に意地悪するのは、お兄さんの自慢のついでなんだろう。部門は違うけど、同じ朗読コンテストに出れば順位とか比較して叩ける。そんなところなのかもしれない。
「まあ、とりあえず、予選通過を目指そう」
「……うん」
私なんかが通過できるのか、不安しかないけれど。
朔間くんは他にもいろいろ先生に聞いてきてくれた。どういうふうに朗読したらいいのかとか、練習の仕方とか。
図書室では声が出せないし、剛里さんたちに見つからないように、毎日場所を変えながら練習した。使用する人の少ない時間帯の音楽室とか、でもだいたいは外。学校近くの河川敷へ行ったり人気のない公園だったり。
その間も剛里さんには意地悪されていたけど、朔間くんが協力してくれているという事が私の心の支えになっていた。
そして練習のお陰で、声も随分出るようになった気がする。
あっという間に2週間が過ぎ、予選の為にいよいよ録音をしようという事になった。
日曜日、なるべく雑音が入らないようにしたいから、防音のしっかりしたカラオケ店へ。学割りが出来たから、それほど高くはなかった。