528ヘルツの奇跡
そんな朔間くんを見て、ふっと思い出した。
前に、テレビのドキュメンタリーで観たけど、海を泳ぐクジラにも迷子がいるんだそうだ。仲間に聞こえない、誰にも聞こえない、52ヘルツで鳴く迷子のクジラ。
世界一孤独なクジラっていうんだって。
「やりたくなければ、やらなくていいと思う」
思わずそんな言葉が口から出てしまった。朔間くんも驚いてこちらを見た。
「今やりたくないなら、やりたくなるまで待てばいいし、本当にやりたくなかったらやめちゃえばいいんだよ、きっと」
「……全然、説得力がない」
「えっ?!」
今度は私が驚いて朔間くんを見た。
「今、やりたくない事、無理してやってるの、森さんだろ」
「そ、それは……」
それはそうだ。朗読コンテスト、出たくないのに出ようとしてる。考えてみれば、エントリーは取り消し出来ないけど、熱が出たとかで当日欠席してしまえばよかったんじゃ。
それなのに、どうして私は出ようとしているんだろう? 自分で自分が分からない。
口ごもってしまった私に、朔間くんはふっと笑った。
「まあ、いいや。ありがとう、森さん」
そう言って彼がグイッとアイスコーヒーを飲み干した。
「ねえ、俺の事、『蒼太』って呼んでよ。俺も森さんの事、『文香』って呼ぶから」
「えっ?! なんで?」
「俺たち、もう友達だろ?」
朔間くん――蒼太くんがニッと笑ったのと同時に、部屋の使用時間終了を告げる電話が鳴った。
◇◇◇
前に、テレビのドキュメンタリーで観たけど、海を泳ぐクジラにも迷子がいるんだそうだ。仲間に聞こえない、誰にも聞こえない、52ヘルツで鳴く迷子のクジラ。
世界一孤独なクジラっていうんだって。
「やりたくなければ、やらなくていいと思う」
思わずそんな言葉が口から出てしまった。朔間くんも驚いてこちらを見た。
「今やりたくないなら、やりたくなるまで待てばいいし、本当にやりたくなかったらやめちゃえばいいんだよ、きっと」
「……全然、説得力がない」
「えっ?!」
今度は私が驚いて朔間くんを見た。
「今、やりたくない事、無理してやってるの、森さんだろ」
「そ、それは……」
それはそうだ。朗読コンテスト、出たくないのに出ようとしてる。考えてみれば、エントリーは取り消し出来ないけど、熱が出たとかで当日欠席してしまえばよかったんじゃ。
それなのに、どうして私は出ようとしているんだろう? 自分で自分が分からない。
口ごもってしまった私に、朔間くんはふっと笑った。
「まあ、いいや。ありがとう、森さん」
そう言って彼がグイッとアイスコーヒーを飲み干した。
「ねえ、俺の事、『蒼太』って呼んでよ。俺も森さんの事、『文香』って呼ぶから」
「えっ?! なんで?」
「俺たち、もう友達だろ?」
朔間くん――蒼太くんがニッと笑ったのと同時に、部屋の使用時間終了を告げる電話が鳴った。
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