528ヘルツの奇跡
 剛里さんは私の隣に立っている蒼太くんをちらり。不思議そうに不機嫌そうに、眉を歪めた。

「どうして朔間くんが一緒にいるの?」

 蒼太くんが私を手伝ってくれてた事は、剛里さんには知らせていない。言ったら絶対に邪魔されそうだったから、担任の先生意外誰にも秘密にしていた。上手く出し抜けた事に少しスッとした。

「剛里と同じだよ」

 蒼太くんが言った。

「俺が文香の付き添い」

「なにそれ! 聞いてないし! それに、なんで森さんの事、名前で呼んでるの?!」

「友達だから。でも剛里には関係ないし、言う必要もない」

 蒼太くんのストレートな言葉に、剛里さんは黙り込む。キュッと結んだ口と睨むような目。あの顔、絶対怒ってる。

「じゃあ朔間くん、あたしの事も希星(きらら)って呼んでいいよ。あたしも蒼太って呼ぶから」

「……ダメ、呼ばない」

 蒼太くんはハッキリそう言うと、剛里さんからぷいっと顔をそむけてしまった。

 剛里さんの顔は真っ赤だ。でも拒否されて怒っているはずなのに、なぜか泣き出しそうに感じた。蒼太くんを見つめる目が、部屋の照明でゆらめいて見える。

 もしかして……

 剛里さんは蒼太くんのこと、好きなのかな。なんとなく、そう感じた。

 でも、だったら意地悪とかしなければいいのに。なんだか、かわいそうだなって思った。

「まあまあ、希星(きらら)。誰が付き添いだっていいじゃんか。それより、キミ」

 横から剛里さんのお兄さんが口を出してきた。『キミ』って誰? 私の事? 目が合ってしまった。

「まぐれ、で予選通過おめでとう。僕はキミと違って実力で通ったけどね」

「え?」

 ねっとりとした話し方で、見下すような視線と言葉を向けてくる。なんだか気持ち悪い人。
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