528ヘルツの奇跡
「あと、希星に聞いたけど、キミ、朗読をSNSに投稿してるんだって? どうせリスナーなんて付いてないんだろう。ムダだから辞めたら? まだ中学生だから分からないかもしれないけど、キミみたいな声の人はその辺に結構いるんだよ。プロの声優にもゴロゴロいる。だからちょっと変わってるだけで平凡なんだ。僕みたいに、選ばれし声の声優には絶対になれないから、早く諦めた方がいい。それに――」
早口で延々と続くお兄さんのダメ出し。
なんで……なんで私、こんな事言われるんだろう。剛里さんのお兄さんなんて、今日初めて会ったのに。それに私は、声優なんて目指してない。
悔しいし悲しい……やっぱり自分の声がダメだからなんだって思ってしまって、何も言い返せない。
「おい! お前、いい加減にしろ!」
「な! な、な、なんだよ、あんた。あ、あれだ、お前も中学生だろう? 年上にそんな口きいていいのかな。そ、そ、それに付き添いなんだろ。暴力なんてしたら彼女は失格だぞ!」
蒼太くんが何も言い返さない私に業を煮やしたのか、横から割って入ってくれた。蒼太くんは、今まで聞いた事のないような怖い声で、殴りかかりそうな勢い。でもお兄さんの、『失格だぞ!』の言葉に、それ以上は何もしなかった。
拳をぐっと握り締め堪え、これからステージに立つ私の事を考えてくれたんだ。
蒼太くんのその優しさが嬉しくて、でもなにも言い返せない自分が悔しくて胸が苦しい。
「――そのへんにしておきなさい」
その時、よく通る落ち着いた声が聞こえた。声の持ち主は、いつの間にか私たちの直ぐ側に立っていた年配のおじさん。
白髪の混じりのグレーヘアに温厚そうな顔つき。でも意外とガッチリ体型で、この場にいる誰よりも背が高い。スーツ姿が上品で落ち着いた感じ。
おじさんは私と目が合うと、優しく笑ってくれた。