528ヘルツの奇跡

　ここではステージの朗読の声が直接聞こえてくる。子供部門なのにみんなとても上手くて、やっと絞り出してる自分の中の自信がどんどんなくなっていくのが分かる。

　膝がガクガクしそうなくらい、怖い……

「――文香、大丈夫？」

　舞台袖からステージを見つめながら震えていたら、急に蒼太くんの声がした。いつの間に近くに来たんだろう。気が付かなかった。

「これ、控え室に忘れて行っただろ」

　差し出されたのは、これから朗読する台本。そんな大切な物を忘れたのに気が付かないくらい、私は緊張して萎縮してしまっていた。

「手、すげえ震えてるな。ほんと大丈夫か？」

　台本を受け取ろうと出した手を、思わず引いてしまった。震えてるのを見られて恥ずかしい。

「……文香、ちょっと両手を貸して」

「え？」

　突然の蒼太くんの言葉に戸惑っていると、彼は台本を小脇に抱え、両手で私の両手を取った。

「目を閉じて、ゆっくり大きく呼吸して」

　言われるがまま、私は目を閉じた。そして大きく息を吸って、吐く。何度か繰り返すうちに、心臓のドキドキが呼吸に合わせてゆっくりと治まってきた。

「……528ヘルツって知ってる？」

　蒼太くんの声が聞こえた。

「528ヘルツって、奇跡の周波数って言われてるんだって。ストレスとかで傷ついたり壊れたりした細胞のDNAを修復するらしい。本当か嘘かは分からないけど」

　朔間くんの声は、目を閉じた暗闇の中に、静かに響いて聞こえる。

「俺、転校して陸上部の事を悩んでた時に、偶然ヨム――文香の朗読動画を見つけたんだ。優しい声が俺の心に染みてくみたいに感じた」

　そこで蒼太くんは黙ってしまったから、私は盗み見るように、そうっと薄目を開けてみた。ステージから溢れてくるライトの明かりに照らされた蒼太くんは、真っ赤な顔でじっと私を見ていた。

　それを見て、また心臓がドキドキ。きっと、私の顔も真っ赤だ。