528ヘルツの奇跡

「じゃあ森、そこまででいいや、座って」

 私が席に着くと本を回収した先生が、じゃあ授業始めるぞ、と声を張る。それが合図だったかのように、さっきまでの沈黙の緊張感は解かれ、クラスメイトたちの関心は私から逸れていった。私もうつむいたまま教科書を開いた。

 ――忘れたいけれど、ハッキリと覚えている。あれは、小学一年生の時だった。今みたいに国語の授業で教科書を音読をした時。隣の席の男の子が言ったんだ。

「おまえ、変な声だな」

 子供って時々残酷だ。頭に浮かんだ考えを、そのまま口に出す。

 小学生になったばかりだったし、その子は違う保育園だったからお互いによく知らなかった。だから、初めて聞いた私の声が気になったのかもしれない。

 私の声はどうやら、他の子よりも高くて変わっているらしい。いわゆる、アニメ声というやつだ。別にわざとそう出しているんじゃない。普通に話してそうなってしまう。

 でもそれから男の子にからかわれるようになった。そして私は、誰かに聞かれるのが嫌で、大きな声が出せなくなってしまった。

 中学生になった今でもそれは続いている。

 今のクラスでも、いじめっ子気質の陽キャが私のコンプレックスをめざとく見つけ、イジリ、と称するゆるイジメみたいになっている。表立って悪口を言われたりはしないけれど。

 ゆるゆると、真綿を締めるようなイジメ。

 蚊の鳴くような声を出す度からかわれ、笑われ。それだけだけど、小さなストレスは徐々に私の中に溜まり、そしてますます私は口を噤む(つぐむ)

 私は、自分の声が大嫌いだ。

 やがてチャイムが鳴り、私にとって地獄みたいな国語の授業は終了。それだけでホッとした。
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