528ヘルツの奇跡
 確かにカッコいいなって思うけど、私は別の理由で彼を気にしていた。

 だって……つるまなくても、一人ぼっちでも動じないなんて、いいなあって思う。

 私はみんながグループ作ってると自分だけ浮いていてなんだか気まずいし、自分も誰かといないといけない様な気がしちゃうのに。

 だから、朔間くんがちょっと羨ましい。

 自分の器の小ささにため息をひとつ零すと、着替える為に多目的教室へ向かった。





◇◇◇

 体育は思ってた通り、マラソン大会の練習だった。今までは何度か、校庭をぐるぐる周回していたが、今日は慣れる為に外のコースを走る事になった。

 コースといってもそれ程長くはない。学校の周りをぐるりと回り、途中で横道に逸れてすぐにある神社の境内に入り、お参りして戻って来たら校庭を一周してゴール。本番はもう少し遠くまで走るみたいだけど、授業時間内で終わらせる用のルートだ。

 先に女子から出発。女子には副担任の吉田先生が一緒に走る。女性で、いつも優しい先生。あまり広がり過ぎないように、事故を起こさないように、要するにお目付け役みたいだ。

 男子には体育教師の小熊(おぐま)先生。小熊なんて可愛らしい苗字だけど、ボディビルの大会に出るのが趣味のガタイの良いムキムキな男の先生。声も体も大きくて、私は少し苦手だったから、女子の引率が副担の吉田先生で良かったなって思う。

 出発して暫くは、みんな並んで走っていたけど、徐々に差が広がり始める。真面目に走って高タイムを狙う人と、疲れたと言って歩き始めちゃう人。

 私はその中間で、早くも遅くもないくらいでマイペースに走っていた。やっぱりみんな、友達同士二人とか何人かでつるんで走ってる。そんな中で一人なのは私だけ。まあ、もう慣れたけど。
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