528ヘルツの奇跡
「えー本当に? この声、森さんとそっくりなんだけどぉ〜?」
わざとらしい言い方で、私の目の前に再生した動画を見せつける。その動画は、星空の写真が固定表示され音声だけが流れる、小説の音読動画だった。
黙々と読む声だけが流れてくる。
「知らない……私じゃないよ……」
「えー? ホントに? あたし絶対、森さんだとおもうんだけどぉ?」
ねえ? って、後ろの三人に同意を求めると、彼女たちはニヤニヤしながら頷いている。
「教室じゃあ、あんなにちいさ〜い声なのに、こんな動画撮ってるんだ? びっくり! でもリスナーに聞こえるのぉ? あ、音量上げてるんだ? 教室でも音量上げられればいいのにね!」
剛里さんの言葉に、後ろの三人がどっと笑った。
「だ、だから、違うってば……それ、私じゃない、から……」
「えー? なになに? 聞こえなーい! 音量上げてくれる?」
しつこく絡んでくる剛里さんから離れようと、足を早めた。でもまだ彼女たちはついてくる。
「メンドクサッ! ねえ、認めなよ! どう聞いてもこの動画、あんたの声なんだけど! 名前はえーと……ヨム?」
「ヨムちゃーん! こっち向いてー!」
後ろの三人も追従するように動画投稿主の名前を連呼する。
もうやだ。泣きそうだ。
体育の授業なのに、なんでこんな目に合わなきゃいけないの?
私の声で、何か剛里さんたちに迷惑かけた? かけてないよね? なのに、どうして!
そう言い返したいけど、やっぱり声が出ない。くやしい。
震える足で必死に走るが、速度は上がらなかった。剛里さんはからかいながらずっとついてくる。何人か追い抜かしたけど、他のクラスメイトは誰も助けてくれない。