528ヘルツの奇跡

「――おい!」

 その時、後ろの方から低い声が聞こえた。剛里さんたちよりも、もっと後ろの方。

「なあ、おい!」

 もう一度、聞こえた。思わず止まって振り返ると、男子が一人走ってきていた。

 ――朔間蒼太だ。

 朔間くんは私たちに追いつくと、剛里希星を指差して言った。

「もうすぐ小熊先生くるから。それ、しまった方がいい」

 彼が指さしていたのは、剛里希星のスマホだった。授業中の使用は禁止されてるから、見つかったら放課後まで没収だ。反省文も書かなきゃいけなくなる。

 気付いた彼女は、慌ててポケットにしまった。

 朔間くんはそれを見届けると、また走り始める。追い越される時に一瞬、目が合うと少し……ほんの少しだけど、笑っていた気がした。

 もしかして、助けてくれたのかな……

 お礼を言いたかったけど、彼の背中はもうはるか彼方。その後を、私から興味を無くした剛里さんたちや、女子に追いついた男子たちが追いかけるように走っていった。





◇◇◇
< 8 / 28 >

この作品をシェア

pagetop