528ヘルツの奇跡

02・空芯菜

 剛里希星の言っていた事はあっていた。

 体育の時に彼女が見せてきたSNSのアカウントは、私のものだ。

 大嫌いな自分の声。せめて少しでもマシになるように、自分なりに音読の練習をしていた。録音して、ダメな所をチェックして。スラスラと読めるようになれば、少しは好きになれるかなって……

 動画を投稿したのはほんの気まぐれ。せっかく撮ったから、なんか勿体ない気がしただけ。

 それにSNSなんてたくさんの人が投稿してるから、私のつまらない音読なんて、聞く人はいないだろうし、すぐに埋もれてしまうと思ったんだ。実際リスナーなんてつかなかったし、すぐ埋もれた。

 だからその後もたまに投稿していた。最近は、著作権の切れた小説とか読んだりしてて、ちょっと楽しかったんだけど……

「消さなきゃダメかなぁ……」

 学校が終わって帰ってきた自分の部屋で、ベッドに仰向けで寝転びながら『ヨム』のアカウントを見ていた。

 スマホは中学生になった時に、塾の時とか連絡取れるように親に買ってもらった。ネットは親の制限かかってて、あまりたくさん使うとすぐ使えなくなっちゃう。でもゲームはしないし、動画も見ないから別に不自由はなかった。

 『ヨム』の音読はこのスマホで撮ってる。

 でももうおしまいにしなくちゃ。剛里さんには私じゃないって否定したけど、バレバレだったと思う。

 それに、どうせ誰も聞いてないし……

 パッと消しちゃおう、そう思って退会のアイコンに指を伸ばした。そこでフォロワーが増えている事に気が付き手を止めた。先月音読を投稿した時は、フォロワーはSNSの公式アカウントだけだったのに。

 それから二人も増えている。
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