あの子はメルヘンチック
そんなまるごと可愛い天使な彼女を、俺と同じように可愛いと思う男は多かったわけで。
「君、どんな男がタイプなの?」
なんてことを、ライバルにすらならない小者が俗物的な視線を向けて天使に聞いたとき、当時の俺は嫉妬でくるったが、彼女の返答は潔かった。
「この本にいる王子様みたいな人」
天使が読んでいたのは有名な童話の小説。ガラスの靴を落としたシンデレラを王子様が探し出すやつだ。
さらりとメルヘンな思考を表に出した天使の表情は一点の曇りもなく、妙に噛み合わない会話に恐れをなした男たちは早々に離脱していった。ざまあみろ。
そうほくそ笑んだ俺だが、待ち受けてるのは同じ道なので笑顔も弱くなる。
「き、今日は雨だね……!」
「うん、良い天気だね」
「え、あ、うん。土砂降りだけど……」
勇気を振り絞ったはじめての会話がこれだ。撃沈。
大粒の雨が激しく窓をノックする中、ほわんと呑気に微笑む天使に、俺はかなり動揺しながら可愛いと現実逃避した。土砂降りが良い天気……?
それからというもの、花壇のお花に話しかける天使や猫や小鳥に囲まれて中庭でうたた寝してる天使を目撃しては、愛らしい光景に心臓を鷲掴みにされ、リアルメルヘンな世界に思い悩む。
正直、本物の王子様を探してる天使は、俺のことを村人のモブAくらいにしか認識してないかもしれない。
もう1年以上隣の席にいるのに。
「綾人、恥を忍んで言う。どうすればいい」
「恥を忍んで言う必要あんの? 恥じる場面はもっと他に多々あったと思うぜ」
「黙れ……俺のメンタルはそんなに強くない……」
「めげずに1年も好きでいるんだからメンタルは強いだろ。女誑しだった中学と違って、清い生活送ってるみたいだしな」
「俺は高校で生まれ変わったんだよ! それ以前の俺の話はタブーだ! 天使に聞かれたらどうする!」
「この距離では聞こえねえよ!」
わかんないだろ、そんなん。
歌ってると小鳥が寄ってくるような天使は、卓越した超能力的なのもってるかもしれないだろ! 大いにあり得るだろ!
あああ、怖い! 昔の俺なにしてんだ!
過去の俺の素行がバレたら、今の品行方正な俺は自害するしかなくなるぞ!