あの子はメルヘンチック
己の中学時代のクズエピソードを抹消したいが、油性ペンで書かれた俺の過去の記録は消しゴム如きじゃ消えない。襲ってくる後悔も同様にdelete不可。
頭を抱えて所業の数々に「クソがああ!」と宛もなく八つ当たりをする。隣でけたけた笑う綾人はこの上なく楽しげで、性格の悪さが滲み出ていた。最悪だ。
俺と気楽に友人できてるだけある。
「めるちゃんの求める王子様は、確実に女誑しのクズではないもんな〜。結弦くんどんまい」
「元を付けろ! 今は清く正しく愛を貫いて生きてるだろうが! 振られる前提なのやめろ!」
「告ってもねえのに振られるもクソもねえだろ」
「…………俺とお前、友達だよな?」
「とーぜん。友達以外には優しくしてるし」
綾人の友達の基準と関わり方が理解不能だ。
俺より少しばかり体格に優れた綾人に見下ろされ、流し目で笑われる。人当たりのいい清潔感のある笑顔を振り撒く綾人の本性は真っ黒だ。悪魔に魂売ったんじゃないか?
それと比べると、うちの天使は清らかな純白。ホイップクリームみたいな白い肌に、艶々に磨かれたまん丸の綺麗な瞳、塾した赤い果実のような唇、小柄ですっぽり抱きしめられる可愛さ。常に甘くていい匂い。
俺も遥か遠い昔、幼稚園児だった頃に「天使様みたいね」と言われたことがあったが、本物の羽の生えた天使と比較したら俺は駄作の贋作でしかない。
天使なメルヘン様と同じなんて恐れ多いし、遠く足元にも及ばないのだ。
俺は所詮元クズのニンゲン。
天使の白い羽もきんぴかの輪っかもない。
「おい、また全部口出てるし、めるちゃんについてる羽も天使の輪っかも結弦の幻覚だかんな。あと予鈴なったからはやく天使の隣の席戻れ」
「…………勝手に名前呼ぶな」
「は〜、みみっちい王子様だな。好きなら独り言に気をつけろ。天使困らせんなよ」
独り言なんてしねえよ、天使困らせるやつは死罪だ。
綾人の呆れた溜息に背中を押され、俺は天使の隣に心臓をドキドキさせて着席。
ちらりと隣を盗み見しながら、無意識に呟く「可愛い」をクラス中に拾われてるなんて知らず、俺は困り顔の天使を見て、うっとりと自分の恋心に溺れた。