あの子はメルヘンチック
燦々と輝く太陽をカーテンで隠した窓際。
俺をセクハラ犯に仕立てる綾人に、負けじと天使の可愛さを説きながら言い返す。互いの持つあらゆる語彙を使って激しい舌戦の幕が上がった。
絵の具の溶剤や粘土の独特な匂いがする美術室の一角で「今のはセクハラ行為です」「違う冤罪だ」「なら下心はなかったんだな?」「あった」「はい逮捕」と攻防をするも、なぜかちょっと俺の分が悪い。
そんな不毛を繰り広げていた俺たちだが、戦いというのはいつも唐突に終わりを告げる。
「ふふ、仲良しだね」
控えめに、くすくすと笑い、桃色の柔らかそうなほっぺをふにゃりと緩ませる目の前の天使様。
かわっ、かわいい、かわいいがすぎる……。
可愛すぎて発光しているし、俺と目を合わせて眦を垂れさせた破壊力に、心臓がぎゅうう、と締め付けられた。愛苦しさで窒息死する。死因は恋の病か。
笑うと落ちそうな桃色の頬を、いつでも受け止められるように手をソワソワさせる俺は「はわっ」となんとも間抜けな声で答えた。
「顔の良さを残念な性格が上回るなんて、なかなかねえよ。メルヘンちゃんごめんな」
「ううん、見てるの楽しかったよ」
「へえ、意外と肝座ってんだね。ほら、ポンコツ王子せっかくのチャンスをふいにするなよ」
「あ、え、あ……」
天使とおしゃべり……!
きゅるんと水晶玉みたいな瞳を向けて、はらぺこ金魚のように口をぱくぱくさせる俺を「ん?」と穏やかな表情で見守る天使の姿に、心拍数が急上昇。
ばっこんばっこん暴れる心臓の揺れで、身体も小刻みに震えてしまった。
「おい、そこの震源地。震度2くらいで揺れるのやめろ。見てるこっちまで情けなくなるだろ」
「わたしとお話しするの、そんなに緊張する?」
「(あわわわっ、はわ、あ、あわわわ……っ)」
チャンスがピンチだ……! カンペをくれ!
偏差値3くらいまで下がった俺は、胡乱な目付きの綾人に助けを求めながら「き、緊張しゅる」と声を絞り出し、天使の「しゅるんだ〜」という返しに思いっきりカウンターを食らって、リングに沈んだ。
くっ、なさ、情けないな、俺……。