あの子はメルヘンチック


 俺より20センチ以上背の低い天使が、つま先立ちしながら優しく頭を撫でてくれるの、どんなご褒美よりも嬉しくて涙出そう。俺、もしかして知らないうちに世界とか救ってたんじゃない?

 だから、頭よしよししてもらえてるのかも。


「結弦くん、なんか犬っぽいね」

「め、めるは、犬派……?」

「ううん、猫派」


 ガ、ガーン……。

 急募、猫に生まれ変わる方法を知ってる人。俺を猫にしてください。


「……おっ、俺が、猫になったらどうする?」

「んー、うちの子にするか要検討」

「僕、純粋でお利口なにゃんこです。飼い主さま、末長くよろしくお願いしますだにゃん」

「俺の友達、いつの間にか人間やめてんだけど何が起きてんの? 猫かぶりすげえし」

「猫だからな、猫かぶりくらいするにゃん」


 天使を前にして、人間やってる方がおかしいよな。

 俺は今日から特にプライドのない猫。ちりんちりん鳴る鈴付きの首輪つけて、猫じゃらしで好きなだけ遊んでください。いい子にします。


「メルヘンちゃんと話すと、偏差値と精神年齢がどんどん下がってくな。このままじゃ赤ん坊にまで退化すんぞ結弦」

「かわいいよね、赤ちゃん」

「ばぶう」

「ちょ、あまり迂闊なこと口走らないでくれる? メルヘンちゃん。結弦が大変なことになる」

「ん? 綾人くんも、めるでいいよ」

「はいはい、めるシャラップ。結弦もステイ。どっちも大概だなまったく」


 俺は天使の足元にちょこんとしゃがみ、わしゃわしゃと撫でられる感触に目を細めて甘い匂いを吸い込む。

 香水とかの人工的な甘さじゃなくて、フェロモンみたいな甘さが肺をじんわり侵食した。俺は健全な男の子なので、好きな子の匂いで当然欲情してしまう。

 近付いたらもっといい匂いするんだろうな。どさくさに紛れて抱きつく練習、今度してみよ。

 綾人に首根っこを掴まれ、この日は天使と引き剥がされてしまったが、めでたく関係値が〝村人モブA〟から〝名前呼びできる友人〟にステップアップしたことを、俺は帰り道にぴょんぴょん飛び跳ねて喜んだ。

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