あの子はメルヘンチック


 ──そして最近の俺は、少し調子に乗っている。


「は〜〜、今日の俺もビジュよし!」


 鏡の前でヘアアイロンの電源をオフにした俺は、自分の姿をくるりと確認。天使とお揃いのふわふわの髪が揺れた。自画自賛の出来栄えだ。

 王子様スタイルも板についたし、唯一無二の天使ともかなり仲良くなった。これはもうゆずめるカップルが爆誕して国中から祝われる日も近い。

 によによとだらしなく緩む口元。期待が抑えられなくて破顔してしまう。

 ふんす、と気合を入れ直した俺は、今日も元気に天使が待つ学校へと歩き出した。


「めるおはよう、めるおはよう、めるおはよう……」


 登校中にするのは、天使への朝の挨拶の練習。

 仲良くなっても天使を前にすると吃ってしまうので練習は欠かさない。

 一緒にお昼ご飯食べたり(綾人付き)、図書室で勉強したり(綾人付き)、連絡先も交換して(綾人に頼んで)、俺は順調に天使と仲を育んでいる。

 全く進展がなかった1年の頃が嘘のように、あっさりと縮まった距離。親密な関係性。

 どうしてもラブラブカップルの未来を想像してにやけてしまう俺は、告白する時に緊張で噛んでしまわないよう、こうしてアピールの練習に昼夜励んでるのだ。


「あ、観賞用のポンコツ王子来た!」
「今日もメルヘンちゃんへの挨拶の練習してる〜」
「まじ残念なイケメンのテンプレだよね」
「本命童貞にガチ恋はない、ふつうに冷める」
「卒業までにゆずめるになるか賭けよー!」


 うるさいぞ、モブども! 散れ!

 俺と天使の恋路を面白可笑しくネタにして楽しむモブなんて邪魔なだけだ。はやく散れ。

 天使に知られてこれまでの苦労が全て水泡に帰すことになったら、俺自身も泡となって消えるからな!


「あ、め、めるめる! おはよう!」

「めるめる? おはよう……」

「(練習したのにいいい、なんでだああ〜〜!)」


 教室にいる生徒に見守られる中、俺は今日も練習の成果を発揮できず、ひとり静かに落ち込みながら天使の隣に着席した。

< 16 / 53 >

この作品をシェア

pagetop