あの子はメルヘンチック
不名誉にもポンコツ王子と名高い俺だが、男にはやらねばならんときがある。
午前と午後の真ん中。
基本使われてない空き教室の窓際で、小さなお弁当を持つ姿すら最高に可愛いと、俺は夢心地の甘い吐息を零した。天使の魅力は尽きることがない。
「お前はなにをおかずに白米食べてんだよ。いくらなんでもめるをガン見しすぎだろ」
「綾人くん、それ言ってくれてありがとう。ちょっと食べづらかった」
「お、俺が食べさせてあげる!?」
「……ちがう、そうじゃない。もういいや」
俺の返答のどこが間違いだったんだろう。
だれか天使のための指南書をくれ。それか攻略本でもいい。俺は本当はやればできる子なんだ。
諦めた顔でたまごやきをぱくりと食べる天使の食事風景を一瞬も見逃さぬよう注視しながら、俺は頭の中で言い訳をずらりと並べる。
不埒なことは考えてないんだ。ただ天使の食事を見守ってるだけなんだ。神様信じてください。
「女の子を眺めながら白米食べてるやつのどこが不埒じゃないんだよ。神様も呆れてるだろ」
「俺の頭の中を覗くな」
「ちげーよ、バカ。全部思考が口に出てんだわ。この距離じゃ俺だけじゃなくてめるにも聞こえてんの、おわかり?」
「神と天使に誓って、俺は変な真似はしていません」
「……なんか、結弦くんの思う変なことの定義が知りたくなってくるね」
冷ややかな眼差しを向けてきた綾人に後頭部を叩かれて、俺の頭の優秀なネジがすぽんと飛ぶ。
今、天使、俺のことが知りたいって言った。俺のこと知りたいなんて、そんなの恋の始まりじゃん。
どうぞなんでも聞いてください!!!
「ちがうの。色々なんか、結弦くん、うん……」
「ん?」
「できれば、白米は違うおかずで食べて。わたしの唐揚げあげるから。はいあーん」
「ッッッ!? ッッッ!?」
「これでよし」
「……〜〜ッ!! ○%×$☆♭#▲!?!?」
「なんもよくなってねえよ、悪化だわ」
て、天使の、お箸……っ!? あーん!?
か、間接キスっ!? 濃厚接触!? お、俺たちいつ結婚したの!?!?
「ほらみろ、壊れただろ」
「あははっ」
俺は、涙目のまま天を仰いだ。天使のお箸から運ばれた唐揚げ世界一うま。