あの子はメルヘンチック
笑い声も可愛くて声ごと吸い込みたい。ぱっつんと眉下で切り揃えられた天使のふんわり前髪もチャーミングだし、形のいい耳朶もぷにぷにしたい。
はあ、俺、今日なにしようとしてたんだっけ……。
お腹じゃなく胸が満腹になっていた俺は、とろんと蕩けた顔で天使を見つめていたが、ふと大事なことを思い出した。
「(ああっ! 男はやらねばならんときがあるんだった!)」
ガタリ、椅子から立ち上がって天使と綾人を驚かす。
ふたりが「何事?」と首を傾ける中、俺は緊張で大爆発しそうな意識をなんとか保ち、一世一代の告白のつもりで口を開いた。
「め、める、く、くれーぷ、すき?」
「ん? クレープ?」
「そう、あまくて、おいしいやつ、すき?」
「うん、好き」
す、すき? 好きってことは、ラブ……?
真剣な顔で誘っていたのに、天使からの〝好き〟の二文字に頭が大混乱。もしかして俺、天使にラブコールされたのでは?
「…………え、好き? 俺のことが好き?」
「へっ?」
思わず掴んだ天使の華奢な肩。
ほっそ、と天使の小ささに驚きつつ、抱きしめてしまいそうな衝動を堪えて、俺はもう一度聞く。
「俺たち、りょ、両思い……?」
心臓がドッキドキ。
おめめを丸くして「なんの話……?」と困ってる天使の愛らしさに胸きゅんしながら、俺は脳内で勝手に結婚式を挙げていた。
リンゴーン、と鳴る教会の鐘。彼女はプリンセスでもあるからとびきり可愛いドレスを着てもらおう。
……ぱしっ。
「いて」
「妄想はそこまでだ。お前は今自分がなにを聞いてたのか思い出せ? 好きだなんて言われてねえよ」
強烈な一撃が後頭部に……。痛いな。
心底呆れたような顔の綾人が肩を竦めて無情なことを言うので、熱くなった俺も反論する。
「今、俺、好きって言われてただろ!」
「だからそれはお前にじゃねえ! クレープが好きかどうか聞いてたんだろ!? それの答えだ!」
「まだわかんないだろ! 俺のことかもしれない!」
「恐ろしいポジティブだな! お前は!」
互いに息をぜえぜえさせながら、何を争ってるのか。
天使が「恐ろしいポジティブ」の発言に楽しそうに笑っていたので、まあ良しとしよう。