あの子はメルヘンチック
気を取り直して、もう一度。
「俺とクレープ食べに行きませんか」
「うん、いいよ」
え? いいの?
あっさりと返ってきたOKの返事に、嬉しすぎて脳内バグが発生する。しかし頭の中の六面ピースがカチカチと全て綺麗に揃った時、理解してしまった。
これはもしや〝初デート〟では?
お祝いのテロップが陽気な音楽とともに頭の中でドンドコと流れてくる。天使とデート? そんなハピネス。
「どこのクレープ屋さん?」
「へっ、あ、あの、学校の近くの大きな公園に来るキッチンカーの……」
「わ、それ気になってたやつだ。楽しみ〜」
「お、俺も楽しみ……!」
ふわふわのクリーム色の髪を揺らして、天使が屈託のない笑みを零す。心做しか綾人も「よくやった」と言いたげな表情で背中を叩いてくるし、なにこれ脈アリですか? 俺、前世でどんな徳を積んだの?
──人間は、嬉しすぎると現実世界の速度に置いていかれるらしい。by浮かれてルンルンの大路結弦。
午後の授業を放心状態で過ごした俺は、あっという間に訪れた放課後、つまり初デート開始の合図に舞い上がって、椅子の角に脛をぶつけた。
「大丈夫?」
「だ、だいじょぶ。かっこわるい俺を見ないで……」
「かっこわるいなんて思ってないよ。痛い音したから心配してる」
「うう、だいじょぶ。でもやり直しさせて……」
「ん、どうぞ」
強がっただけでぶつけたとこは痛いけど、好きな子にこれ以上ださい姿を見せるのは勘弁。
すうはあ、と深呼吸して、教室に残るクラスメイトらに見守られる中、天使様を見つめた。
「める、クレープ食べに行こ」
「ふふっ、うん!」
ズッッッキュンッッ!
天使の満面の笑みが眩しすぎて「アア゚!」と奇声が出てしまった俺は、天使の微笑みの破壊力に失明しかけて自分の目を両手で覆った。
さて、初デートのはじまりはじまり。