あの子はメルヘンチック
夏めく群青の空の下、風薫る息吹を感じる。
行き交う人々の視線を一身に浴びてるというのに天使は悠々としていて、隣を歩く俺は誇らしさで自慢したい気持ちと独占したい気持ちの矛盾で葛藤していた。
「車道側、日当たって暑くない?」
「暑くないよ。めるが溶けないように専属の壁になってるだけだからね」
「ええっ、日陰になってくれなくても大丈夫なのに」
俺を見上げる天使が心配そうに眉を垂らす。
しかし安心してくれ。貪婪な俺は天使を人目に晒したくないのと、真っ白な肌が焼けて赤くなったら興奮してしまうから望んで日に当たってるだけだ。
こんな不埒なことを考えていると天使が知ったら軽蔑されるだろうから、もちろん心に秘めておくが。
いや、清純な天使に蔑まれるのもあり……?
「……」
「……」
微妙な沈黙が、俺たちの隙間を通って流れた。
綾人という仲介人がいないと、俺は困ったことに天使を楽しませる話題すら提供できない。なんてチキン野郎なんだ。
太陽にこんがり焼かれてる今、フライドチキンに進化してしまうかもしれない。
「あ、みてみて! クレープ屋さんみっけ!」
「……ぐっ、かわいっ」
「ん?」
「なっ、なんでもないよ……」
新緑の葉が道端によく落ちてると思っていたら、どうやら公園はもう目と鼻の先だったらしい。言動の全てが可愛いに直結する天使がキッチンカーを発見し、テンション高めにぴょんと飛ぶ。
なにいまの、かわいいうさぎさんだった。
「ふふ、なに食べようね〜」
「迷ってる?」
「ん〜、迷っちゃう!」
目的のクレープが売られてるキッチンカーの前までやってきた俺たちは、種類豊富なメニューに悩む。
車の横に置かれた手作りの看板には、人気らしいチョコバナナクレープや苺と抹茶のクレープなどの絵とともに、アイスなどもトッピングもできるとあって、かなり決めかねた。
白状すると、俺はいつもの5割増くらいの明るさで喋る天使にめろめろで、クレープの味はなんでもいいなと思ったけど、スマートな王子様はそんなこと言わないのでお口にチャックした。