あの子はメルヘンチック
天使は優柔不断らしく、ずっと可愛い顔で悩んでる。
とにかく愛らしいので俺は一生眺めていられるが、問題は客である俺たちのことを、キッチンカーの中からにこにこと微笑ましげに見つめてくる40代半ばのおっさんだ。
髭を生やした顎を撫で、急に俺たちに向かって「いいねぇ」と話し掛けてきたので、なんとなく身構えてしまう。
天使になにかしようもんなら、キッチンカーごとぺちゃんこに潰すぞ。
「……あの、なにか?」
訝しむ顔を隠さず、俺は天使に色目を使われないよう身体でそっと隠して低い声で言う。
──しかし、
「イケメンな彼氏でいいねぇ。君が悩んでるの愛おしそうに見守っちゃって、ベタ惚れじゃないか」
「え?」
「っっ!? んなっ!? なに言って……っ!?」
予想と違い、直角に切り込んできたおっさんの言葉に激しく動揺して声が上擦った。
かああ、と赤くなる頬で余計に恥ずかしさが増す。天使の横顔を眺めながら惚けてたなんて、おっさんなんで暴露すんだ。…………いや、あれ、まてよ?
「イケメンな彼氏って、俺のこと?」
「他に誰がいんだ?」
「!!!」
か、か、彼氏!? 俺、天使の彼氏に思われた!?
間違いだと訂正する気のない俺は、浮かれすぎて破顔する。おっさんも信じきってるようで「王子様みたいな彼氏だな」と天使ににやにや話し掛けた。
「美男美女、いや王子様とお姫様か?」
「あの、わたし彼女じゃ、」
困り顔の天使が首を横に振りかける。
けれど、しっかりと否定されてしまう前に、俺は天使の言葉を遮った。束の間の幸せに浸るくらいは許してほしい。
「める、クレープどれにするか決めた?」
やんわりと間に入って、天使の頭をぽんと撫でる。
余裕たっぷりの彼氏面で、天使のための王子様になりきった。
「あ、苺チョコホイップの……」
「ん、おっけ。おっさん、苺チョコホイップと抹茶のクレープ。……める、バニラアイスは?」
「え、好きだけど……」
「んじゃ、おっさんバニラアイストッピングして」
混乱してる天使に畳み掛けるように話しかけた俺は慌てる彼女を前に、勝手にお金を払ってしまう。
彼氏と思われたからにはかっこつけたい。最初から天使の分も払うつもりだったけど、おっさんのおかげでスムーズにできた。