あの子はメルヘンチック
俺に撫でられた頭を両手で押さえ、訂正できる空気じゃないのを察した天使が、落ち着かない表情できゅるりと見つめてくる。
表面上はスマートに微笑んでいた俺だが、内心は「マジ天使、超カワイイ」と発狂して奥歯を噛み締めていた。多分、いつか奥歯が砕けて割れることだろう。
「ほれ、可愛いカップルさんよ、溶けないうちにどうぞ。お幸せにな」
「おっさんありがと。める、ベンチ座ろ」
「う、うん。ゆずくんありがとう……」
「ん、どういたしまして。(……ゆ、ゆずくんっ!? まさか彼氏仕様の呼び方してくれてる!? あああ可愛いよおお、好きすぎて涙出るよおおっ)」
出来たてのクレープを受け取り、俺たちは大きな公園というか広場のような場所になってる木陰のベンチに座った。開放的な緑の多い広場は人も多く、噴水の近くで遊ぶ小学生もいる。
そんな和やかな光景を前に、俺たちは妙によそよそしい空気のまま「いただきます」とクレープを齧った。
「……」
「……」
どうしよう、味が分からない。今なら何食べても幸福の味がするくらいには浮かれてしまってる。
ちらり、隣を盗み見すれば小さな口でクレープを頬張る天使がいて、心臓が忙しなく動いた。
半袖のシャツの隙間から覗く真っ白な二の腕、そよ風で揺れる胸元の赤いサテンのリボン、ふわふわの柔らかい髪。暑さで紅潮した頬とくるんと綺麗にカーブした長い睫毛、チョコのソースがついた口元……。
「んむっ」
「……」
知らず知らずのうちに伸ばした指先が、柔らかい唇をなぞった。
俺の指先についたチョコに気づき、天使が慌てる。
「えっ、チョコついてた? わ、恥ずかし。口で教えてくれたらよかったの、に──っ!?」
ぺろり。
そして、俺は、まるで見せつけるかのようにチョコのついた指先を舌で舐めた。
クレープの上に乗ってるバニラアイスが溶けて、ぽたりと地面に垂れる。通りすがりの人が俺の官能的な仕草に見惚れていたなんて、当然気づかない。
一連の流れを1番近くで見ていた天使が、大きく目を見開いて、熟した林檎のように首まで真っ赤に染めあげる。その反応に、俺は酷く満足して莞爾と笑った。
────あれ、まずい、やっちまった。